心理学とコーチング ~集団内での少数派の影響力~(2020/05/27)

政治の世界では、数が影響力の源泉であることが自明のように語られます。確かに政党、派閥の変遷を見てみると常に集団の規模を大きくしようとする力学が見られます。さて今回のコラムは「数が論理」という中にあって、少数派(あるいは個人)が集団内で、その影響を発揮できている、あるいは少数派(個人)が肯定的に認知され評価されている状況はどのような要因が存在するのか、について解説してまいりましょう。

ブラウンによる少数派が集団内で影響を発揮できるため要因(1988年)。

ブラウンはその要因を4つ挙げています。

1.主張が一貫していること。

少数派は基本的に弱い立場ということもあり、以前のコラムで取り上げた『自己呈示』の「取り入り」という態度をとろうとし、また前回のコラムである「同調圧力」によって、本来の考えとは異なる態度に変わってしまう、というのが多くみられます。当然影響力は持てませんよね。信念を感じさせる主張の一貫性は、多数派に熟考を促す機会を与えるという意味で影響力が発揮されます。

2.投資をしているか。

これは分かりやすい要因です。オーナーは個人ですが大きな影響力をもつことができます。平たく言えば「お金によって支配している」ということになりますが、お金に限らず精神的なことも含めて犠牲を払っていることが認められると、個人や少数派であっても影響力をもつことができます。

3.自律性の存在。

2の投資が、自律性を伴ったものであれば影響力がさらに補強されます。つまり何らかの見返りを期待していることがわかってしまうと、仮に影響力があったとしても、極端に言えば「表面的追従」に、とどまってしまう、ということです。

4.主張の柔軟性。

これは1の「一貫性」と矛盾するのでは、と感じられるかもしれませんが、一貫性を主張する場合の「態度のあり方」と理解してください。
1971年にメラビアンが提唱した「法則」があります。ことばそのものの意味、内容である「言語情報」、声のトーンや大きさ、速度などの「聴覚情報」、話し手の表情、目線、態度や見た目、ボディランゲージといった「視覚情報」の3つについて、その影響力の度合いを数値化したものです。それによると、「言語情報」の影響力は7%に過ぎず、93%は「聴覚情報」「視覚情報」の非言語情報(ノンバーバル情報)が占めている、という結果です。これは「メラビアンの法則」としてオーソライズされました。
まったく同じ内容のプランをCさんが発表すると無視されたのに、それをAさんが提案すると好ましい反応で採用された、という場合が現実にあります。メラビアンの法則を裏付けるケースです。少数派は少数派であるためにそもそも影響力が限られていますから、一貫性ある内容を相手に受け入れさせるべく柔軟な態度で主張することが大切である、という意味です。

上記1~4が備わっていれば、少数派であっても影響力が発揮できます。そして個人の場合、リーダーシップが認められ、その集団を大規模に、経営者であれば巨大企業に成長させていく、というストーリーが思い浮かびます。

「特異性の信用」とは?

ところで、今日成功しているオーナー型大経営者が、創業前から人格円満で、誰にも好かれ、バランスの取れた人であったか、というとどうもそうではないのではないか、と感じてしまいます。スティーブ・ジョブズやマーク・ザッカーバーグをイメージした場合、違った人物像を描くのではないでしょうか。

ホランダー(1958年)が「特異性の信用」ということばを提起しました。排斥されることなく強力な逸脱(革新)を影響力として発揮できるリーダー像をとらえたものです。「この人であれば集団のためにならないことはしないだろう」という信用を獲得しているので、少々荒っぽい手法を集団に課しても、その人についていこうとする状況です。では信用の源泉は何か、ということですが、時間軸で捉えるならば「成功体験の集積」です。そして以前の『心理学とコーチング』コラムで解説した「社会的勢力」の影響者と被影響者の関係性でいうところの「専門勢力…ある特定分野において卓越した知識、技能、能力をもっていると被影響者が認識した場合」と結びついたケースで影響力が補強されていきます。

逸脱した意見を述べるメンバーに凝集性の強い集団がとる態度とは?

さて、ここまで少数派が影響力を発揮できるという場合、というポジティブな要因を解説してきました。それは、少数派は集団内で、影響力をそがれ、排除されることが多いことを自明としているからです。 続いてその自明なところである、凝集性が高い集団が同調しない個人に対して、どのような態度をとる のかについて、解説してまいりましょう。

シャクター(1951年)が、集団のメジャーな意見に逸脱した意見を述べるメンバーに対して、集団がどのような態度をとっているのか、コミュニケーションの量を測定しています。集団に意見を合わせる「同調者」、当初は違った意見を述べていたが途中から集団の意見に合わせる「移行者」、そして「逸脱者」の3者を比較しています。結果は、「逸脱者」に対する他のメンバーからのコミュニケーションが非常に多いのです。つまり逸脱者を“集団規範”に取り込もうとする「同調圧力」が働いているということです。そして面白いのは、その「逸脱者」に集中していたコミュニケーション量が、ある時点(この場合は25分~30分後)から著しく減少しているという流れです。すなわち「同調」に同意しないで「逸脱」を続けてしまうと、「変わり者」として疎外され、集団に対する影響力が失われてしまいます。
いかがでしょうか。
集団内の少数派(逸脱者)は集団からの同調を迫られる。同調すれば(私的受容と表面的追従の違いはありますが)、仲間として認知され、集団内での居場所を見つけることができる。同調しなければ、やがて疎外され、集団から離脱しなければならない場合もある。
というのが“一般論”として成立しそうですね。

素晴らしい経営者は信頼のおけるパートナーによってつくられる。

組織の変革者は、少なくとも同調者ではありません。ブラウンの「4つの要因」、そしてホランダーの「特異性の信用」で、変革者が集団に受け入れられる条件について述べましたが、それらとは別の視点について考えてみたいと思います。それは、前回コラムで取り上げた、アッシュの2枚のカードによる実験で「集団内に1人でも“一貫した味方”が存在する場合は、誤答率が大きく低下する」、という点です。
すなわち自分の考えについて1人、真の理解者さえいれば、自分の判断に自信が持てるということです。

ソニーには井深大さんと盛田昭夫さん、ホンダには本田宗一郎さんと藤沢武夫さんというコンビがありました。それぞれ決して似た者同士ではなく、まさに「相補性」の関係です。
本田宗一郎さんは回想のなかで藤沢武夫さんのことを、「…寝食を忘れて技術開発に取り組んだからな。
それができたのも藤沢と出会ったからだ。カネのことや営業、経営はあちら任せ。社長判も預けちゃった。藤沢が来て、研究に打ち込めるようになったから、次々と新製品ができたと思う。…」と語っています。
参考:本田宗一郎というバケモノを支えた藤沢武夫。二人の「最強伝説」

エグゼクティブ・コーチングは今の時代だからこそ求められています。

今エグゼクティブ・コーチングが注目されています。ソニーやホンダのように優秀な経営者には、その経営者が胸襟を開くことのできる側近の存在がありました。ところがカリスマ視されるようになってくると、社内には心から信頼できる側近がなかなか見当たらない、ということも少なくありません。経営者の意思決定は、その全責任を経営者が負わなければなりません。経営者は基本的に孤独なのです。エグゼクティブ・コーチはそのような経営者に寄り添いサポートする存在ですが、だからこそエグゼクティブ・コーチは、コーチングのプロフェッショナルとしての識見が求められます。企業経営、芸術、アスリート…どの世界でも同様ですが、プロフェッショナルとは実に深遠な世界ですね。

(日向 薫)

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