父母は自分の意志とは別に最初から存在しているものです。「子は親を選ぶことができない」は絶対的な真理であり、このことがさまざまなドラマをつくりだしていきます。一方、ここかしこに存在しているそれぞれの集団は、何らかの理由や要因があって誕生し、維持されています。今回は一般的な集団の形成について解説いたします。
集団はなぜ形成されるのか?
ケリー(1952年)は、個人が求める集団に対する機能を2つ挙げています。
1.規範的機能
個人が社会的に承認を得たい、それを維持したいという動機に基づいて集団に加わる。
「唯我独尊」ということばがあります。自分ほど偉い人物はいない、と解釈される場合が多いようです。
本当の意味は違っている、とさまざまな説の存在が指摘されていますが、肯定の響きを加えて言い換えるならば「ゴーイング・マイ・ウエイ」となるでしょうか。しがらみの多い世の中だからこそ、このことばにあこがれる多くの人々が存在することを私は感じます。つまり現実には、社会の中で承認を得、評価されることを人は求めます。この安寧を与えるものとして集団が存在し、それが規範的機能です。
2.情報的機能
個人が、自分の考えはずれていないか、他者の行動はノーマルなのか、という自分や他者に対して判断するための標準、根拠を提供する機能。
「村八分」は、村落の掟を破ったもの、秩序を乱した者に対して、葬式(+火事の消火活動)を除き、一切の付き合いを断つことであり、個人への制裁として最も強力だと受けとめられる沙汰です。仲間外れになることが怖い、という前提に立っていますから、逆に言えば、メンバーに対して集団の中で孤立しないよう、集団に適応するための情報を集団は発信しているということです。
また、シャクター(1959年)は別の視点での形成要因を指摘しました。それが親和欲求です。
3.親和欲求
何らかの不安を抱えている場合、同じ境遇にある人同士が集まり、その不安を共有することで不安を低減させようとする機能。
これについては特に例示しないでも「その通りだよなぁ」と実感できると思います。不安はマイナスの感情ですが、趣味などポジティブな面においても同じ価値観を有する者同士が集うのは自然なことですね。
集団が形成されると凝集性が働くようになる。
「集団凝集性」とは「集団の成員がその集団にとどまるように働きかけるさまざまな心理的力の合力である(フェスティンガー他 1950年)」のことです。ただしその強弱は集団により異なります。凝集力が低い集団はバラバラになる確率が高まりますので(凝集力がない場合はそもそも維持できないので集団は形成されませんが)、凝集力は集団としての必要条件といえます。その要因は、
- 集団あるいは集団成員の魅力。
- 集団が成員にとって重要な目標を達成するにあたって援助し媒介する程度。
そして、凝集性の高い集団の特徴は、次のような点が挙げられています。
- 集団への成員の定着率が高い。
- 成員間のコミュニケーション、相互作用が活性化している。
- 成員の集団活動への参加が積極的である。
- 集団を維持するために成員が困難に耐えようとする。
いずれも「なるほど」と感じられると思います。
集団に属する人は、その集団に対して同調行動をとるようになる。
「本当なの?」と感じてしまう実験があります。アッシュ(1951年)による非常に単純な実験で、8人の参加者に2枚のカードを見せます。左側には縦に1本の棒が書かれ、右側のカードには3本の棒が書かれています。左側の棒の長さと同じ長さの棒を右側の3本から1本選ぶという内容です。誰が見ても間違いようがない長さの区別がつけられていて、ほぼ100%正しく答えられるという設定です。
心理学実験は、被験者とサクラ(実験協力者)という構成で実施されるパターンが多いのですが、この場合被験者は1人で、他の7人はあらかじめ間違った回答をするように事前に打ち合わせています。真の被験者が答える順番は最後から2番目に設定されています(「間違って答えているじゃないか!」と感じる人が5人続いた後自分が回答しなければならない、という圧力を受ける環境)。この条件を複数のグループを対象として実施していきます。結果は…なんと誤答率が32%に達しました。
まさに同調圧力が働いた、ということなのですが、32%の人の内面については2つの態度に分類されます。
A.「これだけ多くの人が同じ答えをするということは、自分の感覚が間違っているのでは…」と自分の認識を疑い、そして自分の方が間違っていると意識そのものを修正してしまうという態度。
B.私の方が正しいのは間違っていない。但し、何故だかわからないがこれだけ反対の意見を述べる人がいる状況で自分が異なる回答をしてしまうと、居心地が悪い。とりあえず回答を合わせておこう。
Aは「私的受容」であり、Bは「表面的追従」です。
アッシュはその後、設定をさまざま変えた実験を展開しています。結果は、集団内(規模が大きくなった場合の実験も実施)での反対者が3人以上になると誤答率(同調傾向)が急激に増加するが、反対者がそれ以上多くなっていっても同調傾向はそれほど増えていかないというものです。そして集団内に1人でも“一貫した味方”が存在する場合は、誤答率が大きく低下する、という興味深い結果も出ています。
「本当なの?」という問いに対して「同調行動は実際に起こるのだ」ということです。
太平洋戦争時の日本において究極の同調行動が現出してしまった。
私は、日本におけるユング派の巨人であり、文化庁長官も歴任された河合隼雄氏の著作を多く読んできました。1999年に発刊された『「日本人」という病』の中に次のような一節があります。
『…もう一つ、非常に大きな問題がありました。われわれは精神的に素晴らしいのだから、どんどん国のために死んだらいいという考え方です。国のために死ぬことが、一番素晴らしいことだというのです。
死ぬことこそ大事なことだと。僕の同級生たちも、みんなその気で死にに行こうとする。少年なんとか隊なんていうのに応募するのです。応募するだけならまだいいのですが、勇ましい青年が「われわれは国のために今から死んでまいります」なんて挨拶をする。同級生の男性は、みんな国のために死のうとするのですが、僕は絶対に死にたくなかった。早死にしてたまるかという気があるのです。そんな簡単に死んでいいのだろうか、どう考えても死ぬのは恐いと思ったんです。ところが当時「死ぬのが恐い」なんて言うと、もうダメです。日本人として、人間として、男として失格なんです。だから死ぬのが恐いなんていう話は誰にもできなかった。
ただ一人で困ったことやなぁと思っていたら、幸いにも日本は負けたのでした。…』
どのような集団でも同調圧力は生じます。その集団の凝集力が高ければ高いほど、所属メンバーへの圧力はどんどん昂じ、そして究極の姿が太平洋戦争時に実際に起こってしまった、ということです。
次回は、集団内の多数派に対し、少数派が影響力を発揮するには、どのような要因が求められるのか、について解説することにします。
坂本 樹志 (日向 薫)
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