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X-Tech・DX・レガシーシステム・リープフロッグ・ディスラプション…について語ります!

前回のコラムの最後でSさんは、「私は大手企業から革新的事業が生まれるのは、本当に稀なことだと感じています。それをY社は実現しました。その背景、理由を私なりに整理しています」と話しています。
今回も引き続き、若手A課長との1on1ミーティングを実施してもらうことにしましょう。

大企業から革新的企業がなかなか生まれないのは「業界の壁」?

(A課長)
今回は「大企業から革新的企業が生まれるのは本当に稀なことだ」、とSさんが語ったその続きの1on1です。大企業病と括られてしまいますが、さまざまな要因がからみあっていると感じています。Sさんはどう思いますか?

(Sさん)
確かに… 大企業病という言葉でわかったような気になりますが、コトはそう単純ではないですね。ただ、成功したケース、そして失敗するパターンを俯瞰してみると、そこに共通項も浮かび上がってきます。
実践を通じて私なりに像を結んできた内容をお話ししたいと思います。

(A課長)
ファンケルの創業時と中国展開はとても考えさせられました。「業界」という言葉が当たり前のように使われていますが、新規に事業を起こす場合は、その感覚をなくさなければいけないと感じています。

(Sさん)
同感です。業界は「価値観を共にする仲間の集まり」とも捉えられます。黄昏の業界もありますが、大きな業界であれば成功体験の集積によって、その果実の恩恵を受けているメンバー同士だと思うので、なかなかその価値観、発想から抜け出せない。

X-TechからDXへ!

(A課長)
ほんの数年前には、デジタルトランスフォーメーションという言葉は存在しませんでした。それが、あっという間に浸透し、社会全体を覆う中心概念となっています。
確か2000年代初期に、フィンテックという財務テクノロジー、つまりファイナンスとテクノロジーを組み合わせた表現が使われるようになり、2008年のリーマンショックの金融業界大変動で大手金融機関を離れた優秀な金融マンたちが、スタートアップ企業を興す流れが始まったと思います。

ただ金融以外で、リテールテック、HRテック、エドテック、アグリテックというように、「カタカナ+テックのパターン」…これは総称してXテックと言われるようですが、デジタルによる業界の変革が語られるようになったのは5年前くらいからですね。

それが新型コロナを世界中の人々が自分ごととして共有するという前代未聞の状況、世界で頻発する気候変動による甚大な災害によって「カーボンニュートラルも待ったなしだ!」 と、これまた世界が危機感を共有する空気感の広がり…

地球規模でパラダイムの変換が迫られている今、個別業界ごとの枠組みではなく、すべての業界にデジタルの激震が起こってしまっていることを、将来を変革してくれる期待を込めてDXとして包含して理解しようという機運だと理解しています。

(Sさん)
デジタルネイティブのAさんは、さすがにカタカナワードに強い! 恥ずかしながらエドテックは知らないなぁ~「江戸時代を見直そう」ではないことは理解できますが(笑)

(A課長)
エデュケーション、教育です(笑) デジタルテクノロジーの進化で教育業界にも変革の大波が押し寄せています。

(Sさん)
教育というと若者というか、学校や予備校をイメージしますが、リスキリングがキーワードになっているように、生涯にわたっての学習、教育の継続が求められるようになりました。昭和世代の私は、デジタルデバイドというコンプレックスの克服が最大のテーマとなっています(笑)

(A課長)
Sさんだから思わず本音を語ってしまいますが、バブル崩壊、そして金融ビッグバンによって、都市銀行が4行のメガバンクに再編されてしまいました。規模といい、ブランドイメージといい、最高の頭脳、知的エリートが最も多く集まっている業界は金融業界、特に都市銀行だと感じています。
ところが…

(Sさん)
ところが… とは?

レガシーシステムが大企業の変革を阻む大きな障害なのか?

(A課長)
Sさん、レガシーシステムという言葉をご存じですか?

(Sさん)
システムがつくのでIT系のワードですか?

(A課長)
デジタルの分野でよく使われます。厄介なテーマとして否定的な側面として用いられる言葉です。大手4行が保有する巨大な基幹システムは、維持管理するためだけに膨大な費用がかかっています。ほんの少しの改善をシステム的に対応しようと思っても、屋上屋を重ねるように改修してきた歴史もあり、誰もが望まない複雑極まりないシステムとなってしまいました。

システムリリースの前に、単発テスト、結合テスト、総合テスト、運用テスト…とチェックに膨大な時間がかかります。費用のほとんどは、SEの人件費である時間コストであり、要件定義後の見積りの桁数を見て、腰を抜かしてしまうことが日常化しています。

特に最大のメガバンクである某銀行は合併の際、基幹システムの統合を回避したため、優秀なSEが総がかりで対応しても、メインテナンスの都度トラブルが起こってしまう、という悲劇的な状況まで招いています。

(Sさん)
現在の経営陣、そして現役の社員が文字通り「負の遺産」を背負いこまされている、ということですね。

リープフロッグは国と国との問題だけではない…

(A課長)
解釈の飛躍は自覚の上で、ベスト・アンド・ブライテストがあれだけ集まっていた都市銀行にもかかわらず、このような状況を現出させてしまった…
もっともどんな優秀な人も、リープフロッグを回避することは不可避なのではないでしょうか。遅れてやってきた者が、まさに蛙飛びのごとく先行者を追い抜いてしまう。発展途上国の人たちにスマホが浸透するは、あっという間でした。
リープフロッグは、国と国の関係で語られますが、都市銀行の基幹システムとネットバンキングの関係も、まさにリープフロッグです。

また楽天が、完全仮想化クラウドという最新テクノロジーで、携帯キャリア事業に参入した際、多くの識者はひややか、というか「無謀だ」と受けとめたと感じています。ところが…もっともコストと時間がかかるアンテナを全国に張り巡らせることも外部委託ではなく、自前でやりきっています。

費用負担の重いAUとの提携によるローミングサービスも解消していく、という流れのようなので、スピード感というか、保守的な日本という土壌にあって、楽天は別格の会社ですね。今もなお、というか三木谷社長のベンチャースピリットがさらに加速しています。

(Sさん)
Aさん、大企業病の深掘りができましたね。
都市銀行の場合、巨大な自社基幹システムを構築したがために、機敏に動けない。店舗という資産を持たず、公共財ともいえるインターネットのみで事業を開始したネットバンキングの急成長は目を見張ります。

私は楽天銀行を使っていますが、365日いつでもOK! スマホさえあれば、TPOは関係ありません。この便利さを知ってしまうと、全国に張り巡らされたメガバンクの店舗網も負の遺産であるレガシーシステムとなってしまった…

ただ規模だけでは判断できない。
復活したソニーも大企業病を克服しました。トップの平井さん、そして吉田さんに引き継がれた魂は、まさにベンチャースピリットです。

「新規事業を成功させるための3つのステップ」とは?

(A課長)
ソニーウォッチャーであるSさんの影響で、私もソニーファンになってしまいました。宣伝広告費だけでなく研究開発の投資金額も日本企業の価値観を超えています。
大企業病で盛り上がってしまいましたが、本題である「新規事業を成功させるための方策」について、お話しいただけますか?

(Sさん)
了解です。
これまでAさんが、さまざまなリーダーシップ論、組織論を紹介してくれたので、それも踏まえてお話ししようと思います。3つのステップで整理してみました。

第1ステップ…「トップ・リーダーが夢を語り、危機感をあおる」

夢はビジョンであり、パーパスである目的です。その目的は「社会への貢献」が実感として従業員の心にストンと落ちる言葉として表現されることが何より大切だと感じています。

そして危機感です。特にこのご時世ですから、守りに入ると結果的に市場からの退出を余儀なくされる、ということがリアルなので、だからこそトップ、リーダーが「このままでは我々は生き残っていけない!」ことを語るのです。

これは、コッターの「変革を実現する為の組織改革の8段階」にヒントを得ました。
ただし、トップ、リーダーの性格もありますから、語り口はさまざまだと思います。静かに淡々と語っていく、というのもありでしょう。
トップに対して従業員は、全人格を察知しますから… 案外トップはそのあたりに気づいていなかったりしますね。従業員はトップのことをよく見ていますよ。

(A課長)
納得です。自己基盤をイメージしました。コーチングでもそれは土台になります。トップこそ自己基盤が強固であることが求められると思います。土台が強固であればぐらつくこともなくなる…

(Sさん)
私も納得です。

第2ステップ…「突出集団の発掘と育成」

突出集団は、ミドルレベルの中から自律的に変化を仕掛けて登場してくる場合と、公式に編成されたチームとして姿を現す場合があります。この段階では、トップは皆が見ているところでは脇役を演じた方が成功率は高まるように感じます。

(A課長)
皆が見ているところでは脇役、ですか? 微妙な表現ですね。

(Sさん)
ここは私の経験も加味されていますが、一般化も可能だと判断しています。
そもそも突出集団ですから、従来の思考、ルール、枠組みを飛び越えて企画や事業の提案がなされます。

既存組織にとって、それは安穏を脅かす危険な存在であり雑音です。つぶしにかかるか無視を決めこむことが通常です。だからこそトップの役割は、その雑音をすくい上げながら、ヒト・モノ・カネ、そして精神的な支援を目立たないように突出集団に送り続けることじゃないでしょうか。

人間には嫉妬心という魔物が蠢いています。カリスマとして従業員に広く深く共有されているトップは別ですが、実際にそのようなトップこそ稀なので、メタ認知で状況を把握する能力と感受性がトップには問われることになります。

(A課長)
前回の1on1で、SさんからY社を創業したTさんの話を思い出しました。まさにY社がスタートアップとして軌道に乗っていく流れとなっている…

集団の創造的突出を促進するための5つの条件

(Sさん)
集団の創造的な突出を促進するためには、いくつかの条件が整えられる必要があります。箇条書きにしてみます。

① 社内の雑音からの隔離
② 集団内に十分な異質性を取り込む
③ 集団の規模を、少なくとも初期は小さくしておく
④ 極めて挑戦的な目標と明確な期限、納期の設定
⑤ 予算、職務手続きなど組織的障害を極力薄めていく

Y社はZ社を飛び出し、社外ベンチャーとしてのスタートです。これは絶対的ではないですが、社内のノイズが聞こえてこないようにする手段として有効ですね。

(A課長)
私は、②の異質の人材に響きます。特にITのエキスパートは必須です。社内にも優秀な人材はいると思いますが、ITベンチャーで有望な企業とコラボを組む、というのもアリだと感じています。

メガバンクの組織文化には「情報システム部門はサポート部門である」という価値観が根強く存在しているのではないでしょうか。
IT企業は別として、多くの伝統的大企業も同様で、だからこそ、この保守的な姿勢がディスラプション…つまり破壊的イノベーションの大波に呑まれてしまっていると感じます。

(Sさん)
Aさんの言葉は、まさに今を語っている… ディスラプションは最近耳にするワードですね。

(A課長)
デジタルディスラプション、とデジタルを付けるのがより正確な表現となります。今後は、IT企業以外も高度なデジタル人材を経営ボードに据えていくのが、主流になっていくと想像しています。

第3ステップ…「変革の増幅とシステムとしての体系化・定着」

(Sさん)
それでは、最期の第3ステップです。変革のシンボルを核として変化の渦を巻き起こしていくことです。突出集団が生み出した新しい発想を社内に伝播させ、増幅し、システムとして体系化させていくプロセスです。

肝は連鎖反応を惹き起こすことですが、そのパワーは、部門間、ミドル間、チーム間に働く複雑で微妙な集団間力学です。人間の情念、感情といった心理が連鎖反応のガソリンとなるのです。この段階でのトップは、前のステップの脇役から「変化の扇動役」に変わります。それを言葉だけではなく、突出集団やそれに続くリーダー、メンバーへの具体的な処遇に反映させていくのです。一連の彼らの行動を、企業が公式に評価するのです。

これがミドルの突出に戦略的な意味づけを与えます。新しいパラダイムを確立するためには、新たな解釈の付与、定着が求められますから、突出集団とされていた存在が正統化されることで、企業文化全体の革新につながっていきます。

(A課長)
3つのステップが理解できました。ただ大企業病で話が盛り上がったように、年とともに、纏いを厚くしてきたしがらみの存在に足がすくみ、身動きがとれなくなった多くの大企業には、ハードルが高いセオリーのような気もします。

だからこそトップの力量が問われる訳ですが、どのような優れたトップも一人の人間ですから、周りの人間がそのトップを助けてあげたくなる、というか、周りの人間をいつの間にかその気にさせている人間力、器の大きさこそが最大の要件だと実感しています。

私はエグゼクティブコーチの存在が、そのゴールに近づくためのサポーターとなりうる、と思います。Sさん、コーチングは実に深い世界ですよ!

(Sさん)
コーチングの申し子たるAさんの締めの言葉ですね(笑)
次回の1on1もよろしくお願いします。

坂本 樹志 (日向 薫)

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