だがスターマー氏は、教育に限らず多くの政策について「短期的には感謝されない」ことはわかっていると述べたうえで、「ポピュリズムは答えではない。イージー・アンサーズ(安易な答え)は国を強くしない」と演説し、国民に辛抱を求めた。
(毎日新聞1月19日7面~「英首相の“つまらない政治”」より引用)
意味不明の見出しは「キャッチー!」…かもしれない?
前回のコラムで、「時折こうして、さまざまの新聞も読むことを心がけています。朝日、読売、毎日… 新聞各社のトーン&マナーの違いを感じることも一興ですね」と、書いています。そこで今回は、毎日新聞を取り上げてみようと思います。
ニューメディア(と言ってもよいでしょう)の「TikTok」から始まった「タイパ」が世界の潮流となっています。オールドメディアと評される「新聞業界」も、時代対応を心がけているようで、「写真や画像などビジュアルを増やし、見出しについても「キャッチ―」な表現が増えているように感じます。今回は「見出し」に注目して、語ってみようと思います。
1面(+3面)は、「中国から祖国へ 反戦訴え」というタイトルで、「長谷川テルの信念」という大特集が組まれています。この1面にはこの大見出しに加えて、記事の半ばに「“エス語”で平和希求」、の見出しが登場します(これも大きな文字です)。
「エス語?…」、私だけでなく、この表現だけでピンとくる人は稀だと思うので、あえて読者に「謎」を感じせ、attentionにつなげるテクニックだと理解しました。説明している箇所を引用します。
エス語は1887年にポーランドのユダヤ人眼科医。ザメンホフが発表した国際語。中立的な言語によって平等な世界を作ろうと考案された。国内では小説家の二葉亭四迷や詩人の宮沢賢治ら多くの文化人が学んだ。
つまり「エスペラント語」のことです。長谷川テルをWikipediaでチェックすると、冒頭に「長谷川 テル(はせがわ てる、1912年3月7日 – 1947年1月10日ないし1月14日、文献により異なる)は、日本のエスペランティスト、反戦・反帝国主義運動家」とあります。
毎日新聞1月19日の日曜版は、長谷川テルの大特集を組んでいた!
毎日新聞は、「エスペラント語に託された願い」と「長谷川テルの生きざま」を通して、私たち読者に「戦火の絶えない世界のリアルをどう思考するか」、という視点を提供しています。“エス語”という「謎な言葉」にattentionしなかったら、私はここまで真剣に読まなかったかもしれない…そんなことも想起しています。
あともう一つ、この記事を深く読んでみようと感じた理由があります。(株)コーチビジネス研究所は、このコラムが掲載される「ホームページの更新情報」とは別に、「CBLコーチング情報局~コーチング大百科」という、別のURLを公開しています。最近の解説では「宮沢賢治」が連続して取り上げられているのですね。符合を感じました。
世の中に氾濫する「活字群」に対して、何をチョイスし、かつそれに対してどれくらいの想いでコミットメントするのか… 読む前は、内容は不明です。読む行為はパワーを要します。したがって事前の“動機如何”が影響するわけですね。結果的に私は、認知がゼロだった「長谷川テル」、そして「エスペラント語」の知見をそれなりに獲得することが出来ました。
この記事のまとめ(3面の最後の段落)を紹介します。寺島さんとは、記事の「語り部」的な人物で、元関西大学名誉教授の寺島俊穂(74)さんです。
前出の寺島さんは、こう力を込めた。「21世紀になっても侵略やジェノサイド(大量虐殺)が起こると私たちは再認識させられた。今こそ、反戦平和のために闘ったテルの思想と行動を振り返る必要がある。テルの言葉は100年たっても古くならない」
さて、冒頭の引用に目を転じていただきたいのですが、「7面 国際」に掲載された「Sunday Column」のタイトルは「英首相の“つまらない政治”」、です。7面の上部2/3は、8人の記者が執筆している混載ですが、下部1/3は大きなスペースで、ロンドン支局長の篠田航一さんが記事を寄せています。
大きな文字のこの見出しを見た時「?」が点滅しました。「意味がわからない…」ということで、かえって読む動機が生じたのですね(笑)。
記事は、不祥事続きだった保守党から14年ぶりに政権を奪還した労働党のキア・スターマー首相の半年後の現在を評価しています。タイトルだけを見ると、「かなり批判的な内容だろう」と想像されます。実際に書き出しから1/3は、かなり辛辣です。その1/3の最後あたりを引用します。
スターマー氏は地味である。英メディアでは「つまらない政治家」「退屈な演説」と酷評され、労働党の公約は「(対話型人工知能の)チャットGPTが書いたのか」とのジョークまで飛び交った。
スターマー英国首相は、俗にいうところの「カリスマ」とは真逆
キャッチ―(?)なタイトルの意味が“少し”わかりました。
ここから、記事の流れが変わります。「ところがどっこい」のスタートです。スターマー氏の伝記を執筆した政治ジャーナリストのトム・ポールドウィン氏の言葉を取り上げます。
「彼は単純な政治を嫌います。短くわかりやすいスローガンを言うだけで、すべてが解決できるという幻想を国民に持たせることはしません。政治は曖昧さや微妙なニュアンスの上に成り立っており、それをむしろ大事にしています。単純明快さは、ポピュリズム(大衆迎合主義)につながると信じているのです」
そして小見出しの「教育に力を入れる」が挟まれ、冒頭の引用に続くのです。なかなか凝った流れですね。そして、「分断さけ 地味に」と見出しを付し、記事はまとめに向かいます。
世界は今、分かりやすく「敵と味方」を作り出す政治家であふれている。だがスターマー氏は比較的おとなしい。政敵を口汚くののしることはなく、総選挙で争った保守党のスナク前首相に対し、「わが国初のアジア系首相としての彼の偉業は、誰も過小評価できない。私たちは皆、彼の仕事熱心さを知っている」と選挙後にねぎらいの言葉を贈った。スナク氏は両親がインド系移民で、英国史上初のアジア系首相だった。
スナク氏はこの言葉を受けて、「私は彼を尊敬している」と応えるのです。
記事の最後は、次のようにまとめられます。政治の世界は「一寸先は闇」と言われるリアルを受けて、あくまでも慎重に……
年が明け、労働党政権も夏には2年目を迎える。英国民はどこまで「つまらない政治」に慣れることができるのか。「カリスマの正反対」(ポールドウィン氏)とされるスターマー氏の正念場がそろそろやってくる。
モチベーションにつながる「符合の感覚」を大切にしたい!
私は、この「カリスマの正反対」というワードに最後、少し意義を申し立てようと思います。3年前の2022年1月に「リーダーシップ理論の変遷(4)~箱根駅伝とカリスマ的リーダーシップ~」というタイトルのコラムをアップしています。「コンガーとカヌンゴのカリスマ的リーダーシップ」を取り上げることで、一般的にイメージされる「カリスマ像」との違いを「リーダーシップ論」の視点で描いています。その中で、「アイヒマン実験」と「ハンナ・アーレント」にも言及してみました。一読いただくと幸甚です
パフォーマンスを前面に出し、EU離脱に突き進んだジョンソン首相とは真逆のスターマー首相を、私は「推し活」します。
(追伸)
前半に登場する元関西大学名誉教授の寺島俊穂さんは、ハンナ・アーレントの研究者でもあるのですね。ここにも符合を感じています。
坂本 樹志 (日向 薫)
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