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前半は「中国語は音楽的である」、後半は「アンドリュー・ング米スタンフォード大学兼任教授が登場する『直言』」を語り合う1on1ミーティングです!

心理学を学びコーチングの資格を有する新進気鋭の若手A課長と、部長職を長く経験し、定年再雇用でA課長のチームに配属された実践派のSさんとによる、2023年36回目の1on1ミーティングです。

「日本は多くの国民がロボットや自動化、AIに好意的だ。AIが雇用を奪うことへの抵抗が少なく、導入を迅速に実行しやすい独自の強みがある。AIは複雑な技術だが、多くの人に基本的な理解を広め、具体的な利用法を見出す力を持たせることが必要だ」
(日本経済新聞9月3日2面『直言~AI活用は人類の利益~』より引用)

Andrew Yan-Tak Ng米スタンフォード大学兼任教授が登場!

(A課長)
Sさん、さあ始めましょう。9月3日の『直言』にアンドリュー・ング氏が登場しました。

(Sさん)
このところアイスブレイクなしで1on1がスタートするのが自明の流れになりましたね。

(A課長)
ええ、今日を迎えるにあたって、Sさんとのコーチング型1on1を何回重ねてきたか振り返ってみたんです。Sさんが私のチームに異動してこられたのは21年の10月でした。

(Sさん)
そうか…ほぼ毎週やっていますよね。どれくらいになるのかな?

(A課長)
今日で92回目です。「継続は力なり!」ですね。

(Sさん)
すごい! 歴史を刻んでいる。
Aさんとの1on1をはじめてしばらくは、正直お付き合いの気持ちでした。コーチングについては感覚的に「わかっている」と思っていましたが、当時は表層の知識だった。

私は部下と、それこそ天文学的な回数…失礼、ついつい話を大きくしたがる…多くのミーティングを重ねてきて、部下の本音を引き出すよう工夫してきたつもりでしたが、それは「思い込み」でした。1on1を通じてAさんに教えてもらいました。

(A課長)
いえ、それは違います! 私は大先輩のSさんに「教える」ことなんてできません。ただ、とにかくSさんのことを知りたかった。あらゆる部署を経験され、中国での立ち上げのご苦労も耳に入っています。ですから、少しでもSさんの経験を吸収したくて、必死になってSさんの話を聴いたんです。

A課長は必死になって部下であるSさんの話を聴いた!

(Sさん)
そういう言葉が返ってくることは予想の範疇ですよ(笑)

(A課長)
えっ?

(Sさん)
それこそが、コーチングなんですよね。Aさんはとにかく私の話を聴いてくれた。何回目の1on1だったか… 今まで会社内部の人には言葉にしたことのない話を、思わずしていました。それに気づいたとき、微妙な感覚になったんです。「恥ずかしさと後悔…」でした。

(A課長)
……

(Sさん)
でも、そのあたりからかな? Aさんには「何でも話そう…」と思えるようになったのは。

(A課長)
当時を思い出します。私はとにかく必死でした。コーチングのことなど考えていなかった。真剣でした。そのことは今も体感として残っています。

(Sさん)
だからこそ、それがコーチングだ(笑)

(A課長)
う~ん… Sさんには教えられっぱなしです(笑)
コーチングセッションには基本としてのパターンがあります。私は10のステップで理解しています。セットアップで最も大切なことは、クライアントの間にラポールをつくっていくことです。だからこそアイスブレイクが大切になってくるのですが、Sさんとは「基本の流れ」を、とうの昔に凌駕してしまった(笑)。ですから「何でもアリ」ですし、だからこそエキサイティングな1on1が繰り返されていると感じています。

「基本の流れ」を凌駕した先に訪れる関係性とは?

(Sさん)
Aさんは私のことを知り抜いている。そして、私ではない部下たちとの1on1ミーティングは、私とは全く違っている。
Aさんと10回くらい1on1をやった頃、M君から「SさんとA課長の1on1はどんなカンジですか?」と訊かれたんです。そのとき、UさんとE君もいたから、それぞれがAさんとどんなカンジで1on1をやっているか、紹介し合ったんです。
ものすごく面白かったなぁ~

(A課長)
そんなことがあったんですか…

(Sさん)
四者四様が鮮明でした。四人のAさんがいるようでしたよ。Aさんはよく「コーチングの3原則」を言葉にしますよね。まさに「それだよなぁ~」と、実感しましたね。もっとも、そのことをしっかりと理解できたのは1年経った頃でしたが…

いや~ 今日はしっかりアイスブレイクをやりましたね(笑)
テーマの日経新聞『直言』に移りましょう。

(A課長)
何だか完全にSさんのペースだ(笑)
今回の『直言』は、アンドリュー・ング氏です。とても嬉しい。というのもサム・アルトマン氏を教えた人ですから。生成AIの帳を開いたチャットGPTは、ング氏の存在なかりせば生まれなかった!

ング氏は「深層学習」の研究で革新的成果を上げた世界的権威!

(Sさん)
私は、ング氏についてはまったく知らなかった。ただ『直言』に登場する著名人は、案外日本では語られていない人が多いですよね。初回はOISTのマルキデス学長ですし、カルステンスBIS総支配人の名を知っている日本人はどれくらいいるでしょうか。トニー・ブレア元首相もこのタイミングで登場するとは、誰も想像していない。

(A課長)
日本経済新聞の慧眼です。
私は、チャットGPTは3.5からチェックしていてので、4.0には感動しました。ウォッチしている過程で、ング氏を知ったのです。

(Sさん)
ところで、ング氏というのは、日本語的に発音しにくいですよね。私は中国駐在の4年の体験によって、中国を身近に感じるようになりました。ですから中国が出てくると、身体が勝手に反応します。「調査モード」が起動してしまうのです。
掲載された大きな写真から「中国系の人だろう」と感じ、イングリッシュ・ネームで、どうして「ング」を使っているのか知りたくなったのですね。ちなみに「ング」は「Ng」であることを理解しました。

(A課長)
そこはスルーしています(笑)

(Sさん)
中国名は「吳恩達」です。アルファベットを用いた発音記号のピンイン… pinyinと書きますが、それで表すと「wú・ēn・dá」です。「ウー・エン・ダー」となります。

(A課長)
イントネーション付きだから、私には発音できない。

(Sさん)
平板な日本語に慣れている私たちにとって、中国語を学ぶ際にもっとも苦労するのが「四声」の4パターンです。
Aさん、以前社内で「中国進出」を2時間かけて報告した際、「中国語の早口言葉」を最後に付録として紹介しています。ちょっとやってみましょうか、脱線になっちゃうかな?

(A課長)
脱線大歓迎です。脱線になってくるとSさんがどんどん息づいてくる!
これまでも、Sさんはときおり中国駐在時の体験を語ってくれましたが、今日の前半のテーマは「中国語」ということでいかがですか。「Sさん流中国語講座」をお願いしたい。

今回の1on1の前半は「Sさん流中国語講座」に…

(Sさん)
ありがとうございます。コーチングの3原則にある「個別対応」をAさんは承認してくれた、という解釈でやってみます(笑)。資料を出しますね。

」のカタカナを並べた「マー・チー・マー……」は、何のことか分からないと思いますが、意味はちゃんとあるんですね。ただ短縮しているので、正確には「マー・マー・チー・マー、マー・マン、マー・マー・マー・マー・マー?」です。
「簡体字」で書くと「妈妈骑马、马慢、妈妈骂马吗?」となります。ちなみに台湾は、この文字ではなく、諸子百家の時代から使われていた本来の漢字です。毛沢東時代に発明されたシンプルな字画の「簡体字」に対して「繁体字」と呼称します。

(A課長)
「簡体字」は毛沢東なんだ…

(Sさん)
ええ、政治的な意図によって開発された文字です。「繁体字」は複雑で覚えるのが大変です。もともと中国の為政者は別格の「天」であり、大衆は統治されることを前提にしています。そのために、庶民は「文字」を知る必要がない…というスタンスでした。一種の「愚民化政策」と言えるかもしれない。

(A課長)
つまり「毛沢東思想」を中国全土に浸透させるために文字を簡略化した、という訳だ。

(Sさん)
そうなんです。「愚民化政策」を転換させた功績は毛沢東です。ただ、それによって「思想統一」という裏の目標が進んでいく。なかなか複雑です。その一つの到達点が「毛沢東語録」です。「簡体字」が定着します。
文化大革命は「伝統文化の解体」がスローガンに掲げられました。「簡体字」はその一環でもあります。

(A課長)
なるほど…

(Sさん)
せっかくなので、上海にいたとき『毛沢東語録』を読んでみました。

(A課長)
どんな内容ですか?

『毛沢東語録』を独自解説するSさん…

(Sさん)
う~ん… 乾いた筆致です。要は、毛沢東の「軍事戦略」本なのですが、情緒的ではまったくない。「合理主義に徹している」、と言っていいのかな?
共産党の中国建国は、欧米列強、そして日本、さらに国民党との内戦に勝利して、100年間誰もなしえなかった独立を毛沢東が実現しました。その源泉は「武力」です。そして毛沢東は「神」となった。
ただ毛沢東は典型的な「乱世の人」であり、荒廃した国を立て直す「平時の人」ではなかった、というのが歴史の教訓です。ですから、鄧小平が復帰するまでの中国は、“ぐちゃぐちゃ”を延々と続けてしまいます。

失礼、すぐ脱線してしまう。資料に戻りましょう。
どの国でもネイティブは早口にしゃべります。中国人は特にそれが顕著です。ところが、ゆっくりとした中国語はとても音楽的です。上海浦東空港で流れるアナウンスを聴くと、改めて「いいなぁ~」と感じるんですね。特に女声がいい。

「妈妈骑马、马慢、妈妈骂马吗?」は早口言葉の面白みを感じる言葉です。ものすごいスピードで「マー」を連発しても「お母さんが馬に乗った。馬は遅い。それでお母さんは馬を叱ったの?」と、瞬時に理解できるのが中国人です。その秘密が4パターンのイントネーションです。

(A課長)
凄すぎますね…

(Sさん)
ついでに問題やってみましょうか… 報告会の時は「アニメーション」で解答は空欄にしましたが、回答付を出しますね。2ページくらいにしておきましょう。

中国では外国人もすべて漢字で表記される!

(A課長)
面白い!
ジャッキー・チェンの中国名は「成龍」なんだ。

(Sさん)
香港ではイングリッシュ・ネームを持つのが当たりまえでしたからね。
私が上海に駐在したのは2005年~2008年ですが、私の会社でもスタッフはイングリッシュ・ネームで呼び合っていました。「とてもいい時代だったな」と振り返っています。胡錦涛、温家宝ペアの頃です。「監視社会」ではなく、おおらかでノビノビとしていました。もちろん「やんちゃ中国」は顕著でしたが。

(A課長)
Sさんは、昭和のノスタルジアだけでなく、中国のノスタルジアも語る…

(Sさん)
「私的中国語講座」に時間を使ってしまいました。『直言』に移りましょう。
Aさん、アンドリュー・ング氏の言葉で、響いたところを紹介いただけますか?

(A課長)
はい。ング氏は、生成AIの未来をポジティブに捉えています。『直言』のタイトルは「AI活用は人類の利益」です。「仕事の価値 磨く契機に」「絶滅危機 誇張に過ぎず」と2つの見出しが続きます。冒頭、サム・アルトマン氏が何を成し遂げたのか、合点至極の回答を私たちに提示してくれます。

「サムは大規模なチームを少数のプロジェクトに集中させる方法で成功した。チャットGPTのすぐれた点は『AIの大衆化』を実感させたことだ。技術的に高度なだけでなく、利用者にとっての親しみやすさ、使いやすさで多くの人の想像力をかき立てた」

(Sさん)
実感できます。私のようにITリテラシーが低い昭和世代でも「会話」してるだけですから、ITを全く意識することなく、サクサク使っている。

サム・アルトマン氏が成し遂げたのは、ユーザーフレンドリー!

(A課長)
ユーザーフレンドーがサム・アルトマン氏の「凄さ」であることを、ズバリで捉えている。それから、生成AIが「人間をしのぐ賢さを手に入れていくと…」と不安がるムードに対しては…

「電卓の計算力は昔から人間より優れていた。チャットGPTも特定の作業では人間を上回る。ただ、仮に医師の試験に合格できても、訓練された人間の医師をしのぐわけではない。AIは人間の役割全ては担えない」

私はこのング氏の言葉に接すると、スイスでユング心理学を学んでいたときに河合隼雄さんが何を感じたのか… 患者さんとの「究極の対話」を語る河合さんのことを思い浮かべたのです。
コーチングもそうですが、「人へのサポート」を担う専門職の実像です。人間にしかできない世界は、膨大に存在します。

(Sさん)
CBLコーチング情報局」にアップされていた… 私も読んでいます。

(A課長)
コーチングとは実に奥深い世界です。
そして、ング氏は世界を遠望し次のように語っています。

「人間や人間社会を1000年先まで存続させ、繁栄させたいのであれば、AIの進化を減速させるのではなく、可能な限り速くすべきだ。AI開発を停止するという提案はひどい考えだ。仮に政府が一時停止を法制化すれば、イノベーション競争を阻害する。

ング氏は1000年先の人間社会を見通し、語っている!

(Sさん)
ング氏は、規制当局がAIのことを理解していないにもかかわらず「理解したつもり」になっていることの問題点を指摘していますね。「メタ思考」がいかに大切であるか… ング氏の言葉から伝わってきます。

(A課長)
ここは、まさにコーチングであり共感します。「コーチングとは何?」と、訊かれた場合、最もシンプルな回答として私は、「オーブン!」と答えることにしています。

(Sさん)
私も共感だ!
ング氏は回答で、AIの使い方を誤る危険を警鐘することも忘れていませんね。真の専門家であることが伝わってきます。
さて、『直言』恒例の「インタビュアーから」を確認しておきましょうか。見出しは「真価引き出す“賢さ”を」だ。日経新聞は、バランスをもってコメントしていますね。

(A課長)
ええ、生成AIは人類が体験したことのない「驚異的な技術」です。したがって現時点では、誰も未来を予測し得ない。その未来は、「膨大な変数の組み合わせで現出してしまう」ということだと思います。「摩訶不思議であいまいな存在である人間」と「エキサイティング極まりないテクノロジー」との関わり合いですから、まったく予断をゆるさない。

でも私は、アンドリュー・ング氏が描くポジティブな未来に共感しています。「そうあっててほしい」という願望も込めて!
Sさん、これからも引き続き「刺激的な」1on1ミーティングを重ねていきましょう!

この10年でAIは驚くべき進化を遂げた。人間側がそのスピードに追いつくのが難しくなっているほどだ。ング氏と共にAI研究の大家として知られるトロント大学(カナダ)のジェフリー・ヒントン氏らは、AIが核戦争と同様に人類を絶滅させる恐れがあるとの声明に署名した。
その話題を振るとング氏はさみしげな表情を浮かべた。「そんなリスクがどうやって生じるのかわからない」と語り、AIの利点を繰り返し強調した。第一線で走ってきた専門家の間でもAIが生む光と影に対する見方は割れる。
強い力をもつテクノロジーには危惧や警戒もつきまとう。インターネットやSNSは多大な価値をもたらす一方、社会に深刻な分断を生じさせてきた。AIとの共存が当たり前になる時代に問われるのは、負の側面を制御し、真価を引き出す人類の「賢さ」だ。
(AI量子エディター 生川暁、大越優樹)

坂本 樹志 (日向 薫)

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