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メタ認知で「成人発達理論」の自己変容・相互発達を考えてみる!

前回のコラムは5歳児の孫娘とのかかわりを通じて、発達理論とコーチングを語ってみました。今回は、ハーバード大学教育大学院教授のロバート・キーガン教授が提唱した「成人発達理論」を取り上げることにします。

発達理論というと、子どもや大人になる前の青年期に焦点を当てた理論が多くを占めています。「成人発達理論」が注目されたのは、発達としての成長が見えにくい(止まってしまう?)“大人も成長する”という理論を提示したことにあります。

ただし、すべての大人が等しく成長していく…という捉え方ではなく、ある人は低いままにとどまり、最終段階に至るのはごく少数に限られる、と解説します。

ではなぜ、とどまるのか? 逆に成長し続ける人は何が違うのか? … 紐解いてみましょう。まずは理論の概要です。

キーガン教授は発達モデルを5つの段階で説明しています。

<発達段階1は「具体的思考段階」>

この段階は、言葉を獲得したばかりの子どもの段階と説明されているので、成人一般には適用されていません。前回コラムで描いた5歳の孫娘の状況をイメージしていただければよいでしょう。大人の発達は次の段階から始まります。

<発達段階2は「道具主義的段階」または「利己的段階」>

「他者に対する共感性が乏しいので他人を道具のようにみなす」、と捉え「道具主義的」という言葉を用います。「自己チュー」ですね。キーガン教授によると、人口の1割が当てはまる、としています。

<発達段階3は「他者依存段階」>

名称から、どのようなタイプなのか類推できると思います。平たく言うと「流されやすい人」です。自分で意思決定するのが苦手で、組織などで形成され、すでにつくられている基準によって自分の行動が決定づけられます。ある意味で「従順」ですから、マネージャーにとって、「ありがたいタイプ」と受けとめる場合も多いかもしれません。「権威」とされるものに弱い、それに対して疑いをあまり持たない、と解釈することも可能です。実はこの段階が圧倒的なボリュームゾーンです。

<発達段階4は「自己主導段階」>

3の段階との違いは、自身で価値観を形成しており、自らの基準で意思決定していくことです。自己成長への思いが強く、他律ではなく自律的に行動します。自分の意見にこだわりを持ち、そのことを主張します。自分が何を考えているのか、それを言語化することが得意なタイプです。「自己著述段階」という言い方もします。

<最後の発達段階5は、「自己変容・相互発達段階」>

発達段階の4は、自分の価値観がどうしても前面に出てしまいますが、この段階は、価値観を持ちながらも、それに縛られておらず、また他者がさまざまな価値観を有していることを十分理解しており、そのことを受容できます。

「自己変容」そして「相互発達」というワードの通りで、自ら変わっていくことができ、さらに他者が成長することを喜び、だからこそ自分も成長できることの実感を得て、思いを共有することができる状態です。

私はこれまでのコラムでアドラー、そして渋沢栄一について語っています。この最後の段階である「自己変容・相互発達段階」は、まさに両者の姿を彷彿とさせます。「共同体感覚」「公共心」という概念が、言葉を超えて血肉化されているタイプですね。

さて、11月8日の「成功の循環モデル」のコラムで、若手課長Aさんと、定年再雇用でAさんのチームに配属された部長経験者のSさん(会社の制度で現在は平社員)による、仮想1on1ミーティングを描いてみました。

今回、再度両人に登場いただき、「成人発達理論」をテーマとした続編の1on1ミーティングをやってもらうことにします。

A課長とSさんによる第2回目の1on1が始まります。

<A課長>

前回の1on1では、「成功の循環モデル」をテーマにSさんとミーティングを進めましたが、Sさんの長年の経験知からくるリアルなマネジメントに接することができて、触発されています。今回も刺激的な会話ができそうで、わくわくしています。

<Sさん>

Aさんのフィードバックはさすがですね。言葉そのものはホメではないのですが、私を承認してくれている感覚が伝わって来て…調子に乗りそうですよ。営業を経験すると、数字という明快な評価が現れることもあり、予算を大幅に超過した場合は部署全体で大盛り上がりです。全員がマウンティング状態です(笑)

<A課長>

マウンティングですか…(笑)

Sさんは、多くの営業マンをその気にさせる「言葉のマジシャン」である、と聞いたことがあります。ツボにはまる言葉の引出しが多く、部下をいつの間にかその気にさせている、とその人は言っていました。

<Sさん>

Aさん、コーチングは基本的にホメないと聞いています。ホメては駄目ですよ。 マウンティングは否定すべきものですよ(笑)

<A課長>

いえいえ、ホメではありません。Sさんはマウンティングということばをメタ認知でお話しされています。つまり相対化されています。マウンティングする人は、自分でマウンティングしていると気づかない人ですから…

<Sさん>

いや~ まいりました。Aさんに真顔で言われてしまうと…(苦笑)

<A課長>

あっ、申し訳ありません。私は交流分析のエゴグラムによると、厳しい親の要素であるCPは低いのですが、大人のAが強く出ているんですね。分析癖がある…と評価されました。

<Sさん>

面白いですね~ 要は個性ですよ。私はエゴグラムはやっていませんが、おそらくフリーチャイルドのFCだと思います。同じ子供でも従順ではありませんから、アダプティッドのACではないですね(笑)

<A課長>

Sさんには救われます。会話が途切れることなく自然に流れていく感じです。コーチングの学習を特にしていなくてもコーチングマインドを身に着けている人のことを、ネイティブコーチと呼称しますが、今その言葉を思い出しました。

コーチングのアイスブレイクが終わり、いよいよ本題です。

<Sさん>

もうこのくらいにしましょう…(笑)

今回のテーマですが、「成人発達理論」はいかがですか? 前回「成功の循環モデル」を知ったことで、心理学に興味を持ちました。組織論やモチベーションに関する心理学の知見はないか…と探していると「成人発達理論」をネットで見つけました。定年を迎えた私にとって朗報たる理論なので、心理学を勉強されたAさんに、私が感じたことをぶつけてみたくなりました。

<A課長>

了解です。キーガン教授の本は『なぜ人と組織は変われないのか(英知出版 2013年)』を読んでいます。「成人発達理論」は確か2001年に発表した考えで、この著作はコンサルタントもしているキーガン教授の最近の本なので、進化させている印象ですね。

この本で、キーガン教授は、「免疫マップ」というテンプレートのようなシートをベースに論旨を展開しています。まず「改善目標」、それを「阻害する行動」、さらに「裏の目標」、最後にそれを補強しているというか、価値観であるところの「強力な固定観念」という項目で、クライエントの会社や経営者、マネージャーなどを把握していきます。コンサルタントとして、クライエントに対してズバズバ切り込んでいくのだと想像します。

「裏の目標」は、本音と建前の“本音”ですね。日本では「空気を読む」ことを当然のスキルのようにいわれることもあって、“本音”を引き出すのは、米国以上に高度な能力が求められるようにも感じます(笑)

<Sさん>

興味深い視点ですね。私は多くの部下と接してきて、「こいつ建前で話しているなぁ~」と、なんとなく気づくことがあるんですね。言語化は難しいのですが、あえて言えば“違和感”です。これを意識すると、そこから本音を引き出すプロセスに入ります。うまくいくこともあるのですが… まあ、最後まで口を割らない部下もいますね(笑)

米国文化は「裏の目標」、日本文化は「忖度」…!?

<A課長>

忖度能力ですね。高度な日本文化と言えるかもしれません。

自分がどちらかというと営業系ではないので、豪放磊落といいますか、オープンマインドな人を見るとうらやましさを感じるところもあります。ただそのような人のなかには、相手の性格がどうあれ「自分はすぐ打ち解けることができる」、という自信があるので、案外相手が見えていないんじゃないかなぁ~ と感じることもあります。このタイプの人はかえって騙されやすいような気がします。

京都の人を一般化するつもりはありませんが、「洗練された建前」を駆使できる人に対して結構無防備です。心の中で「いけずな方やなぁ~」という思いを隠しながら素敵な笑顔ではんなりと話されてしまうと…

<Sさん>

気を付けないと…(笑い)

<A課長>

私はメタ認知こそが自分のテーマであるとずっと考えてきました。キーガン教授の『なぜ人と組織は変われないのか』で、次のような箇所があります。

……「知る」という行為は、その人が何を見るか(その人が客観視できる「客体」であるもの)と、何を通じて見るか(その人の認識を支配する「主体」であるもの。「フィルターやレンズ」と言ってもいい)の関係で説明できる。幼い子どもは、自分の認識プロセスを客観視できない。そのため、高い建物の屋上から下を見下ろしても自動車や人間を見たときのように、自分にとって小さく見えるものは、実際に小さいと考える。三歳や四歳、五歳くらいまでの子どもは、ビルの下を見てこう言う───「見て! あの人たち、すっごくちっちゃいね!」。けれども、八歳、九歳、十歳くらいになると、自分の認識という行為そのものを客観視できるようになる。「見て! あの人たち、すっごくちっちゃく見えるね!」と言うようになるのだ。

メタ認知がどういうものか、わかりやすく説明してくれています。

大人になると固定観念のレンズの度数がどんどん増していく…

<Sさん>

成人発達理論の成長のためには何が必要か…特に5段階目を理解するためのアナロジーですね。大人の場合、価値観がどんどん強固になり、変わろうと思ってもなかなか変わることができない。価値観、つまり「裏の目標」が「強力な固定観念」となってしまっており、「行動を阻害」するという訳だ。なるほど…

キーガン教授によると、5段階目の人はほとんどいない、ということになっていますから、極めて難易度の高い境地ですね。

<A課長>

本当にそう思います。

その境地に至らしめるためのさまざまな「教本」が出版されていますが、私は「教示」されて、それを体得できるとは思えないのですね。

その「裏の目標」の存在をしっかりと認識できる…つまり「真の気づき」ですが、深いところの洞察に至らないと、とても近づくことはできないと感じています。

強制されるのではない…まさにコーチングの哲学です。

<Sさん>

私は成長の過程を段階で説明していることに実は違和感を覚えています。最初に私の考えをA課長にぶつけてみたい… といいましたが、段階というと、一気に上位にアップする、という印象です。さらに前段階を捨て去って別の人間に生まれ変わる、みたいな… 昆虫じゃあるまいし脱皮できるとも思いません。

もっとも、先日亡くなった瀬戸内寂聴さんが「人間は時々脱皮する必要があります…」と、どこかで言っていたように記憶しています。寂聴さんは宗教家であり文学者なので納得の言葉ですけれど…

「段階」ではなく「包摂」…!?

<A課長>

なるほど… 推測ですが原語である英語と翻訳された日本語のニュアンスの違いもあるように感じます。私は、脱皮ではなく、下位の段階は上位の段階に含まれて大きな段階に拡大していく、と捉えています。段階だとわかりにくいので、円で考えましょうか。

子どものときの小さな円がだんだん大きくなっていく。小さな円とそれを包摂する大きな円の境界も、はっきりとした線ではなくグラデーションといったところでしょうか。つまり器がどんどん大きくなるイメージです。

それから、昆虫などが脱皮するのは、身体を守る骨が外側…つまり外骨格だからですね。脱皮は命がけのパワーを要するので失敗もあるようです。そうすると死んでしまいます。

他方、内骨格の人間は外皮が柔らかいので、脱皮不要です。成長も劇的ではありませんよね。

<Sさん>

わかりやすいなぁ~ 合点です。

そしてメタ認知ですね。見る対象のレンズを変えていく。固定観念を溶解させていくためには、今までのレンズのままだと、全然見えてこない。

<A課長>

Sさんの提案で、「成人発達理論」の深掘りができました。コーチングの哲学と相通じるものを感じています。

<Sさん>

哲学…いいですねぇ~ 私は、その“哲学”という響きが大好きなんですよ。次回は、コーチングの哲学について、深掘りしたいですね~

<A課長>

望むところです(笑)

ぜひともよろしくお願いします。

坂本 樹志 (日向 薫)

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