なかでも目立ったのが長年にわたって自動車会社の黒子だった部品メーカーだ。背景には電気自動車(EV)や自動運転技術の普及が同時に進む「CASE革命」がある。自動車会社は部品の約7割を外部から調達し、部品メーカーも対応を迫られた。ソフト技術者の採用やM&A(合併・買収)が急務となり、新規受注の機会が広がったことも、黒衣を脱いで技術力を訴える流れを強めた。
(日本経済新聞1月30日7面「経営の視点~日本勢なお“わが道”])より引用)
心理学を学びコーチングの資格を有する新進気鋭の若手A課長と、部長職を長く経験し、定年再雇用でA課長のチームに配属された実践派のSさんとによる、2023年5回目の1on1ミーティングです。
『どうする家康』からアイスブレイクがスタートします。
(Sさん)
前回の『鎌倉殿の13人』が終わって、『どうする家康』が始まりましたね。大河は毎回視ることにしているので、今後の展開が楽しみです。
(A課長)
私は初回だけ視ました。2回目からはちょっと… NHKが番宣に力を入れていたので、今回は、我々のイメージを壊す家康像ということは想像できたのですが、松潤の家康がピンとこなくて… 視聴するモチベーションが上がらないカンジです。
(Sさん)
なるほど… 私はどのようなジャンルでも、あたらしモノ好きなので、古沢良太さんの脚本も含めて、ユニークな家康像が気に入っています。カリスマとしての家康像が定着していますが、実際の家康は違っていたかもしれませんよ。妄想も楽しみながら娯楽作品として視ています。
(A課長)
Sさんは柔軟だから(笑) 私は小栗旬の大ファンなので、『鎌倉殿の13人』が終わって、ちょっとロスっています。小栗旬は凄い俳優だと思います。一押しは、実写版『銀魂2』です。
(Sさん)
それですか! Aさんは、オタクを自己開示してくれましたから、安心して言えるけど、『銀魂2』は、ギャグの限界を突破したトンデモ作品ですね。感動を越えてしまう体験です。
(A課長)
Sさんも視てるんですか?
(Sさん)
2006年にテレビアニメが始まってから次女が嵌って、私もときおりテレビで視ていました。その流れもあって、次女に誘われ映画館でも視ています。そういえば次女はAさんの3つ下だ。同世代ですね。
A課長にとっての最高傑作は『銀魂2』だった!?
(A課長)
何だか娘さんにシンパシー感じるな~
ツーは、2017年のワンに続く第二弾で2018年上映です。これほどまで“旬”な俳優を集めるとは! と感動しましたね。あっ、小栗“旬”に引っ掛けているわけじゃないですよ。
菅田将暉、橋本環奈、吉沢亮、長澤まさみ… 『銀魂』に出演して以降、みんなスケールの大きな役者に成長している。中村勘九郎、ムロツヨシも出ていた。そういえば三浦春馬も出演していました。死が報道されたときはショックでした…
スミマセン、『銀魂』を語ると止まらなくなるので、テーマに移りましょう。
(Sさん)
いつものアイスブレイクは、私の脱線話が続いてしまいますが、Aさんは切り替えが早い(笑) それでは、いつものように日経新聞の記事をテーマにしてみる、ということでよろしいですか?
(A課長)
ええ、もちろんOKです。
(Sさん)
ありがとうございます。今回は家康にちなんで、三河、そしてトヨタをテーマにしたいと考えています。
トヨタは間違いなく日本最大の会社です。ただ世界をみると、2022年12月末の株式時価総額のランキングは、1864億ドルで51位です。12月30日の為替相場は1ドル133.7円ですから換算すると、24.9兆円です。ちなみに日本企業で100位以内はトヨタだけでした。
世界の1位から5位までの企業も円換算で調べています。1位はアップルの276兆円、2位はサウジアラムコで251兆円、3位はマイクロソフトの239兆円です。4位がアルファベット153兆円、そして5位はアマゾンの115兆円でした。
2022年世界の株式時価総額100位以内はトヨタの51位のみ…
(A課長)
桁違いですね。
(Sさん)
ソニーがアメリカのコロンビアピクチャーズを買収したのは1989年です。この年の大納会の日に日経平均株価が38915円をつけています。
そのときの世界の時価総額で、トップ20位以内に日本企業は何社入っているか、ご存じですか?
(A課長)
その時をピークに日本の失われた30年が始まっていますよね… どうでしょう? かなり入っていたとは思いますが。
(Sさん)
そうなんです。20社中14社を日本企業が占めていました。トップはNTTです。大納会の日の為替レートは1ドル143円ですから23.4兆円ですね。2位から5位までが銀行です。2位は日本興業銀行の10.2兆円、3位住友銀行9.9兆円、4位富士銀行9.5兆円、5位第一勧業銀行9.4兆円です。
(A課長)
アメリカの企業が登場しませんが?
(Sさん)
ええ、やっと6位にIBMが9.2兆円で出てきます。
1989年世界の株式時価総額のトップ5はすべて日本企業!
(A課長)
当時の日本の様相は、私にはまったく想像できません。アップルは1976年創業だけど、それ以外のGAFAは、会社そのものが存在していない。
(Sさん)
さすが、アップルマニアのAさん! 創業年も憶えているとは…
「貯蓄から投資へ」と言われるのは、このアメリカンドリームがリアルだからですね。「失われた30年」という言葉に呪縛されるのは、もうやめましょう。 みんなで一緒に夢を見たい!
さて、何でここまで調べたからかと言うと、トヨタも1989年に世界の11位につけていたことを強調したいからです。時価総額は7.7兆円です。バブル崩壊で日本の金融が文字通り壊滅したのに対して、トヨタは当時も今も凄い! と言いたかったからです。
日本はチームで「モノづくりを究めていく文化」だと思います。トヨタ本社そのものは3万点の車の部品を集めて組み立てるだけ… というのは言いすぎにしても、世界的規模の部品メーカーなど、膨大な数で構成されるサプライチェーンを見事に統率しきっている。契約というドライな関係とも違う、世界最大のファミリータイプの企業だと考えます。
トヨタは、西三河を中心に企業城下町をつくり上げました。もちろんトヨタ規模になるとサプライチェーンは世界に広がっています。でも『どうする家康』にある、有能な家臣団に囲まれた「チーム家康」のように、デンソーをはじめとする、世界に轟くすごい部品メーカーに支えられているのがトヨタです。
トヨタは世界規模の有能な家臣団が支えるファミリー企業!?
(A課長)
なるほど… アップルはメーカーですが、トヨタのようにエンジン回りはしっかり自社生産しているのとは違って、生産はファウンドリであるTSMCに丸投げしていますね。アップルはモノづくりの会社というより、設計に特化したソフトを基盤とする会社、と表現した方がなじむかもしれない。
台湾有事への緊迫感が高まる中、アメリカは懸命に国内生産に舵を切ろうとしていますが、日本の強みは、半導体生産のキーを握る半導体製造装置やウエハについては、世界のトップを誇る企業が目白押しなので、自信を持ってもよい、ということかもしれない。
(Sさん)
「辺境の島国日本」というフレーズを私は何度も口にしていますが、相対化するのが苦手な国民性だと感じます。特に「失われた30年」という言葉に支配されて、メンタル的に自信を失っている。実際は秘めたる力というか、世界に冠たる実力を有しているにも関わらず…
ここからが私独自の考察になると思うのですが、Aさん、お付き合い願えますか?
(A課長)
今日は何が出てくるか楽しみです(笑)
(Sさん)
ありがとうございます(笑)
私が物流を担当していた7年前のことです。静岡にある物流センターの建て替えが議論の俎上に載せられたことで、お世話になっている某ゼネコンの名古屋支店長に会いに、名古屋駅前の支社にお伺いしました。
私は高層階のオフィスから外を眺めていて、支店長に「名古屋って、これだけの大都市にもかかわらず、高層ビルがほとんどないですね?」と尋ねたのです。
すると支店長は、にやっと笑って「何故だと思います?」と私に訊き返します。もちろん知りませんから、「教えてください」と言うと…「トヨタが理由です」と答えるのです。
謎を掛けられたようで、私の頭の中に?が浮遊します。
「名古屋にはトヨタのビルより高いビルはつくってはいけない…という不文律があるのです」、と支店長はその理由を語りました。
「そんなことありえるのか!」というのが、率直な感想でした。支店長は、「まあ忖度でしょうね、そんな法律や制度は存在しません。当たり前です。でも名古屋ではそれが自然な感覚で受けとめられているのです」と 、解説してくれました。
名古屋に高層ビルが少ないのはトヨタへの忖度なのか…?
(A課長)
う~ん、都市伝説のような気もします。その支店長も勝手にそう思い込んでいるのかもしれない。ちょっと待ってください。Wikipediaで調べてみます。
「ミッドランドスクエア」が出てきました。トヨタ自動車の超高層ビルで、中部地方で一番高いビル、とありますね。
2008年(平成20年)12月に、東海旅客鉄道(JR東海)が名古屋市バスターミナルと松坂屋名古屋駅店(閉店)などの入居していた名古屋ターミナルビルを高さ260mのビルに建て替える計画を発表したため、当ビルの高さを超えて中部地方で最も高いビルの座を譲る可能性があったが、その後設計を220mに変更したため、当ビルが中部地方で最も高いビルを維持している。
もちろん支店長が言うような表現は書かれていませんが…
(Sさん)
ただ、においませんか?
Aさん、去年の11月21日の1on1で「デンソーのQRコードはオープンソースだったから世界化した」がテーマになりました。Wikipediaの次の箇所を紹介しています。
トヨタ生産方式「カンバン」(ジャストインタイム生産システム)において、自動車部品工場や配送センター等での利用を念頭に開発された。
つまり目的はトヨタとの情報のやり取りを効率化させることであり、この技術そのものを商売にしようとはまったく考えていなかった、ということです。つまりQRコードは、トヨタに部品を納める、部品メーカーという枠の中での技術開発であり、トヨタしか念頭になかったということです。
一昨日月曜日の日経紙面にデンソーを見つけました。それでAさんに話したくなったのです。どちらかと言うと地味な内容ですが…
タイトルは「脱・黒子進める車部品」で、見出しは「日本勢はなお“わが道”」です。
世界最大規模のハイテク技術見本市であるCES 2023に関する記事で、2022年に高性能なセンサーを量産車向けに供給を始めた、創業5年の米ルミナー・テクノロジーのCEOの声を紹介しています。
「部品による性能の違いが大きくなり、部品メーカーがブランドの認知を高めることが消費者や自動車会社のメリットになる」とみる。一世を風靡した米インテルの「インテル・インサイド(インテル入ってる)戦略」を手本とし、CESでもブランド力を高める考えを示した。日本勢は「わが道」を行く傾向が強かった。トヨタ系のデンソーやアイシンといった大手は軒並み出展を見送り、他系列や独立系も影が薄かったのが実情だ。
トヨタファミリーは世界の黒子…なのか?
(A課長)
Sさんの言いたいことがだんだんわかって来ましたよ。「チーム家康」が「チームトヨタ」として、鉄壁な家臣団というか、トヨタ王国が築かれているということですね。
(Sさん)
先読みしていただき、ありがとうございます。
自動車業界は100年に一度の大変革期である、と言われています。トヨタは2022年の世界販売台数が1042万台になった、と一昨日発表されています。しかも3年連続世界一です。
テスラは、たかだか136万台にしかすぎません。そのテスラはイーロン・マスクのツイッター買収騒ぎもあって、株価は目まぐるしく動く展開ですが、2020年時点で時価総額は42兆円でした。2010年は4700億円ですから、頭がくらくらしてしまいます。
(A課長)
Sさんは、この差をどう考察していますか?
(Sさん)
トヨタは家臣団の類まれな能力を手中に収めている。世界を変えることのできる、とんでもないポテンシャルを有しているにも関わらず、それが自覚できていないのではないか… ということです。
スケールを巨視的にして眺めると、トヨタこそ日本そのものを象徴しているリアルな姿ではないか、と感じています。つまり「世界化しているにも関わらず閉じている」のです。
トヨタは「豊田」です。豊かな田んぼです。それを維持するために、みなが助け合います。異端を排除しながら… これはちょっと言い過ぎかもしれませんが、モンスターのような存在になったにも関わらず、名古屋というあまり洗練されていない田舎大都市のイメージが付いて回っているように感じるのですね。
スミマセン、名古屋の人が聞くと怒るな… 私はコメダが大好きで、頭が疲れてくるとよく出向きます。カッコつけない田舎の雰囲気があるので、ホッとします。
トヨタがプレゼンスを発揮した仮想現実を描いてみる…
(A課長)
Sさんらしさが出てきましたね(笑)
(Sさん)
私はトヨタが変身すれば、世界は共鳴すると感じています。つまり世界を救うドリームを語ってほしいのです。環境問題こそ世界が共有できる最大課題となっていますが、私は未来のエネルギーとも言われる水素エネルギーがとても気になっています。
ここからは素人の発言ということで、大目に見ていただきたいのですが、トヨタが「すべての経営資源を水素エネルギーのミライに投入します!」といった宣言をしたら、世界が本当に変わるのではないか… と妄想しています。
ミライは、トヨタのMIRAIに引っ掛けています。私は高速道路で2回、ミライがスマートに走っている姿を実際に観ました。ワクワクしましたよ。
世界最大、かつ最先端のインダストリーを集約するのは自動車であるし、今後も自動車であり続けると思います。人口で中国を逆転したインドで圧倒的なシェアをもつスズキも、トヨタファミリーの一員です。繰り返しますが、トヨタは世界最大のモノづくりの会社なのです。
その自動車について、世界はEV一色かのようですが、トヨタはその波に飲み込まれる必要はないのでは… と思うのですね。EVは当たり前すぎます。追いかけたところで、テスラのように世の中を変えることはできない…
ここでトヨタのバーチャルリアリティを描いてみます。
…投資がかさみ過ぎて、トヨタのブランドは消えてしまうかもしれない。他の会社に買収されるかもしれない。ですが10年後…それはちょっと早すぎるかもしれませんね。20年後を想像したときには、世界中に水素エネルギー車が走っているかもしれません。私は今その夢を見ています。I have a dream today!
トヨタはグレーでもブルーでもないグリーン水素をつくるところから手がけます。水素ステーションなどのインフラにも積極的に関与してまいります。水素エネルギーが秘める底知れない価値を具現化し、世界に提供します。
現時点では1自動車メーカーですが、すべての人が希求する地球の未来を創造する、企業を越えた地球共同体に変身してまいります!
かなり妄想が入りました。申し訳ありません。
トヨタが変われば日本が変わる、そして世界も変わる!
(A課長)
壮大なフューチャーペーシングだ! コーチングの世界観がSさんに憑依している印象です。
(Sさん)
はい、クールダウンします。
(A課長)
環境問題が世界最大のテーマであるリアルを踏まえると、トヨタがまさにイーロン・マスクのごとく大変身すると、世界の投資家によるトヨタへの投資合戦が始まるかもしれませんね。100兆円規模の資金が集まるかもしれない… 私もSさんの妄想が移ってきました(笑)
(Sさん)
トヨタは、世界を変えることができるモンスター級の力を秘めています。これは決して妄想ではないと思います。
400年前を想像すると、日本列島の範囲がイコール“世界”です。
家康は、数多く訪れる「どうする?」の度に、過酷ともいえる意思決定を繰り返し、最終的に“世界”を安定させました。戦いのない“平和な世界”と表現してもいい。それを260年間継続させています。
(A課長)
今日の1on1は世界のミライを語る壮大な1on1になりました。Sさんのリフレーミングは筋金入りだ(笑)
次回もコーチングの世界観を体験する1on1をやってみましょう!
坂本 樹志 (日向 薫)
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