心理学とコーチング ~アドラー その9~(2020/09/26)

前回のコラムで「アドラー心理学のどのようなところが批判されているのか」、について取り上げました。その一つに「アドラー心理学は、健常者にだけ機能する」がありますが、裏を返せば「健常者以外、つまり病(やまい)の状態にある人に対して機能すること」を本来の目的とすべきではないのか、という前提の存在です。もし、この前提が一般的なとらえ方でなければ、そもそも批判として取り上げる必要はないので、アドラー心理学のスタンスが一般的イメージの「心理学の概念」とは違っている、ということになります。
今回のコラムはこのあたりのことを考えてみたいと思います。

コーチングとカウンセリングの違いは何か?

心理学、特に臨床心理学においては、「コーチ」の役割に当たる人を「カウンセラー」と呼称します。そして「コーチング」に該当する行為は「カウンセリング」です。

ここで、少し遡って2018年10月30日のコラム『コーチとカウンセラーの違いは?』を抜粋してみましょう。

『コーチングとカウンセリングの違いは何ですか? とよく質問されます。コーチングとカウセリングは、どちらもスキルとしては非常に近いものがあります。
一番大きな違いは、クライエント(お客様)、つまり対象となる相手の状況が異なることです。カウンセリングは、精神心理的な悩みを抱えた人を対象とした相談援助であり、治療的・予防的な処置に重点があります。そのため、どちらかというと現在の状態に至った原因や過去に遡ってアプローチしていきます。
一方、コーチングは、相手の方の目標達成や能力発揮を支援し、将来どうありたいかを重視したアプローチをとります。カウンセリングにもいろいろな手法がありますので、ひとくくりにはできませんが、両者の違いを簡単にいえば、通常の平静な心の状態が「ゼロ」の位置にあるとすると、カウンセリングはマイナスに陥ってしまった人を「マイナスからゼロの状態に戻すこと」を目指します。
それに対して、コーチングは、クライエントのありたい姿になることを目標に、「ゼロからプラスの方向に向かって支援をすること」にあります。』

いかがでしょうか。心理学の知見を活用して実際に人と関わり合いを持つ体系は「臨床心理学」という分野です。「clinical psychology」の訳で、文字通り医学の範疇とされ、スタートは精神科医が患者であるクライエントに治療として接していく、という分野でした。

ただ今日では、専門の教育を受けた医師以外の有資格者もカウンセリングを行っています。 最近ではこの「カウンセラー」を、百貨店1階の化粧品コーナーの販売スタッフの呼称(美容カウンセラー)として用いるなど、本来の定義から離れて使われることも特に否定されていませんので、かえってわかりにくくなっているかもしれませんね。

コーチングと親和性の高いアドラー心理学

2020年2月より当コラムは「心理学とコーチング」という大きなテーマを掲げ、回を重ねてきました。実は開始早々よりアドラーを取り上げることも考えました。その理由は、コーチングとアドラー心理学の親和性がとても高いからです。結果的には20回目のコラムからアドラーを取り上げることになりましたが、あえて視点を変え、「心理学全体に網を広げて、その結果としてコーチングとの関わりが見いだせれば、ユニークなコラムが書けるのではないか」、というのがその動機です。

今回がアドラーについての9回目のコラムとなりますが、書き続けることで、「コーチングの背景にはアドラー心理学が確固として存在している」ことを再確認しています。言い換えれば、アドラーを綴れば綴るほどコーチングがとても身近なものとして自分の中に落とし込まれていく、と表現できるでしょうか。アドラーは、医学の枠にこだわらない「哲学」としての広がりを目指していたことが、実感として伝わってくるのですね。

今日心理学の知見が医学、つまり精神医学として広く認識されるようになり、確立していく過程における最大の功労者はフロイトです。そこには、精神に疾患を抱えている病の状態にある人たちの苦しみを除去する、という医者としてのスタンスが明快に存在します。すなわちフロイトが描く対象者は患者です。一方でアドラーが、精神に関わる病理を極めようとするのではなく、そこから距離を置いていることに不満を持ちます。フロイトからすれば、健常と病理は異なり、カテゴリー化して分類します。そのことに一生を捧げたと言ってよいでしょう。

それに対してアドラーは、分類することに疑問を持っており、フロイトにとっては、当たり前である、「意識(自我)と無意識(エス)、そして超自我」という構造に対して、「分割できるものではない、心は全体的なものだ」というスタンスですから、そもそもの考え方、捉え方が異なります。

他方、フロイトから袂を分かったもう一人の巨人であるユングは、フロイトの提示した自我構造を受けとめています。ただし、無意識についてフロイトの理解を大きく超えてしまう概念にまで拡張、深化させてしまったことで、フロイトから離れざるを得ない状況に至ったのです。ユングはフロイトを師として尊敬していました。フロイトもユングを「私の皇太子」と呼ぶほど、かわいがっていたのです。「国際精神分析協会」の初代会長に、ユダヤ人のアドラーではなくユングを指名したのは、精神分析の世界化を意図したから、と説明されていますが、ユングを自分の一番弟子として評価していたからこそ、といえるでしょう。

フロイトとアドラーの性格分析を通じて自身を省察したユング

そしてユングはフロイトから別れることで、統合失調症のような状態に陥ります。『知の教科書 ユング(講談社選書メチエ 2001年)』には、その頃のこと、そしてユングが、フロイトとアドラーの性格を独自の視点で分析し、発表することで、フロイトのくび木から解放されたことが記されています。

『1913年にフロイトと別れたユングは、しばらく、分裂病(2001年出版のため現在とは異なる病名を使っています)に非常に近い状態を彷徨する。彼は、ほんのわずかな患者たちと交流をもち、かろうじて家族との生活だけは最低限保ったが、他はほとんどすべての公職を辞めてしまい、チューリッヒから30キロ離れた、チューリッヒ湖の上湖のほとりにあるボーリンゲンで、彼自身が石を積んで建てた塔に閉じこもり、もっぱら瞑想に耽った。(中略)そうした生活の7年間、彼は、本だけはよく読み、ようやく1921年になって、『タイプ(心理学的類型)論』を書き上げて、この世に復活してくる。 こうして、ユングはもっとも人口に膾炙し、もっとも早期から理解された仕事に出会ったのである。つまり、外向-内向型性格の理論である。(中略)この二つの性格を分けるきっかけは、まったく同一の症例を、フロイトとアドラーが、まったく異なった理論で、証明したことにある。つまり、前者は、事例の父母との関係性において、後者は、心の内部の劣等感との関わりにおいて考察したのだが、これを、フロイトは外向型なので、もっぱら自己の外部との関係性に、アドラーは内向型なので、自身との内部との関係性で説いた、とみたのである。この仕事によって、ユングは完全にフロイトと決別することができた。』

外向的な性格、内向的な性格、というとらえ方は今日、一般的となっています。このことにつき詳細な分析を試み、それがオーソライズされたのはユングの功績です。ただし、言葉のイメージからくる単純な解釈に陥らないよう注意が必要です。

『H・エレンベルガ―が述べているが、彼らは最初から同じ道を歩けるはずのないほど、異なる発想をもっていたといえる。人柄のことをいうなら、フロイトが控えめできちっとしているのに対して、アドラーはどちらかというと野生派で気さくな人物だった。 フロイトは書く人、文章家だが、アドラーは上手な話し手であった。アドラーもフロイトも医師であったが、その発想はフロイトが生物学に、アドラーは社会医学の方面にあった。(エディプス・コンプレックス論争 性をめぐる精神分析史/講談社選書メチエ 2002年)』

アドラーを「野生派」としているこの記述は、しっくりくるように感じますね。

さて今回は、カウンセリング(臨床心理学)とコーチングの違いを取り上げてみました。一般的解釈は、「2018年10月30日のコラム」の通りです。私たちも、そこを立脚点にして書き進めています。ただ、「区分、分類、カテゴリーという概念について語るのは、なかなか骨が折れるなぁ」というのが私の実感です。

医薬品と化粧品の違いを一言で説明すると、それは「副作用のあるなし」

コラムの最後に化粧品と医薬品の定義について触れておきましょう。

『医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)』で、化粧品、医薬品の定義が記されています。それによると、化粧品は「人の体を清潔にし、美化し、魅力を増し、容貌を変え、又は皮膚、もしくは毛髪を健やかに保つために、身体に塗擦、散布その他それらに類似する方法で使用されることが目的とされる物で、人体に対する作用が緩和なものをいう。」となっています。

ポイントは、「人体に対する作用が緩慢なもの」です。この意味は、副作用の否定です。化粧品は毎日使うものであり、健常な人がさらに美しくなるために使用するもので、「副作用があってはならない」、ということですね。それに対し医薬品は、「副作用が認められて」います。

例えば、軟膏(クリーム)という剤型をみただけでは、医薬品と化粧品の違いは判明できませんが、違いは「副作用のあるなし」なのです。
病の状態にある人に対し医薬品が処方されます。その病をまずは治すことが第一優先であり、それに伴って生じてしまう「副作用」は大目に見ざるを得ない、ということです。ただし、副作用によっては、重篤な症状に至ることもありますので、医薬品の処方については医者としてのプロフェッショナルな知見が求められるのは言うまでもありません。

コーチングは、クライエントのありたい姿になることを目標に、「ゼロからプラスの方向に向かって支援をすること」と説明しました。コーチングとカウンセリングについて、化粧品と医薬品に敷衍してみましたが、考える一つの視点として受けとめていただければ幸甚です。

(日向 薫)

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