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心理学とコーチング ~態度 その1 態度の機能~

2回にわたって心理学における「対人認知」を紹介してきましたが、今回は「態度」について取り上げたいと思います。

対人認知という4文字熟語はまさに心理学用語であり、一般的な会話の中では使用しないことばだと思います。一方、今回取り上げる「態度」は、日常頻繁に用いることばです。心理学での「態度」はこの意味合いとは異なりますので、まずはその定義を押さえておきましょう。

「パーソナリティの一側面を意味し、いろいろな対象に対して一貫した一定の反応傾向を示す言葉として用いられている。つまり、行動発生のメカニズムの一端がこの態度に求められている。」

やや難解な日本語ですが、ポイントは“反応傾向”です。つまり外部から観察できる“身体の態度”ではなく、対象に対して何らかの反応や行動を決定するための内面的な準備状態のことを指します。つまり精神的な傾向をひもとくもの、と理解してください。具体的に表れる身体の態度について、“なぜそのような態度を示すのか”を探るアプローチといえるでしょう。

心理学者のカッツは態度の機能として以下の4つを挙げています。

態度の4機能

1.適応機能(道具的機能、功利主義的機能とも表現されます)
一般に人は外的環境から報酬を最大に、罰を最小にしたいという欲求がある。外的環境に適応的になるという機能。

2.知識機能(知的集約機能)
外的環境を理解し意味のあるものにしようとする欲求がある。認知的一貫性を保ちたいという傾向。

3.価値表出機能(自己表出機能)
自分が重要視している価値を表したい、自分を高く見せたい、アピールしたいという欲求がある。

4.自我防衛機能
自身で認めたくない内的衝動や外的環境からの脅威から自我を守ろうとする欲求がある。例として抑圧や投影などがある。

適応機能は、道具的、功利主義的というドライな表現が用いられることもあります。トランプ大統領の十八番のディールが思い浮かびますが、置かれた環境に適応しようとする行動であり、忖度などもこの範疇に含まれそうです。

知識機能は、外部刺激を受けた際に状況が把握できないことで混乱が生じないよう、判断そして行動するためのベースとなる機能です。

価値創出機能は、他者に自分への理解を深めてもらうべく言動にふさわしい態度を準備しようとする機能です。人には自分をうまく表現したい、アピールしたいという欲求が存在します。

自我防衛機能はいくつかのパターンで説明できます。

フロイトは人間の精神的(心的)世界を、欲求衝動の解放を希求する無意識の層であるエス、外界との適合を図ろうとする層の自我(エゴ)、その自我に対して道徳的判断を下す超自我(スーパーエゴ)の3層に構造化しました。エゴはわがままなエスと道徳に縛られているスーパーエゴの間に立って、外界との円滑な適応を果たそうとしますが、その求められる役割の難易度は非常に高く不安定であることをフロイトは指摘しました。その不安定を何とか落ち着かせるために発揮する機能を複数挙げています。

  • 抑圧:不安や苦痛の原因となる欲求や感情などを無意識の中に抑え込むこと。
  • 投影(投射):自分が受け入れ難い衝動や感情を他人に押し付けること。例えば、自分が関わりを持ったある人を嫌っていることを認めたくないために(自分は他者を嫌うような低レベルの人間ではない)、その人の方が「自分を嫌っているのだ」と押し付け、すり替えてしまうこと。
  • 反動形成:ある欲求が行動に表れることを防ごうとしてそれと正反対にことをやってしまうこと。
  • 合理化:自分の失敗を認めたくないために、何らかの口実をつくるなどして正当化すること。イソップ物語の「すっぱいブドウの木」が有名。
  • 昇華:直接的に表現してしまうと不都合が生じる欲求を社会的に認められる形で表現すること。防衛機能はネガティブとされるものが多いのですが、この昇華は肯定的評価といえるでしょう。

自我防衛機能とは文字通り自分の身を守るための機能です。

この防衛機能は、防衛とあるように自分の心身を守るための機能であり、一概に否定すべきものではありません。一方でカウンセリング(精神療法)ではこの防衛機能を解くことが治療における重要なテーマになるケースもあります。コーチングセッションにおいては、この防衛機能とのほどよい関係について、クライアントと意見交換していく、というのもよいかもしれませんね。

坂本 樹志 (日向 薫)

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