リーダーシップ理論の変遷(6-2)~サーバントリーダーシップは水戸黄門なのか…!?(2022/01/31)

前回のコラムで『サーバントリーダーシップ』は、「サーバントとリーダー…このふたつの役割を、実在するひとりの人間が併せ持つことはできるだろうか 」というグリーンリーフの言葉から始まることを紹介しました。

この言葉は、グリーンリーフがヘルマン・ヘッセの『東方巡礼』を読んでいた際に得た着想です。ここから600ページ以上にわたって、グリーンリーフはこの命題の解明に挑戦していくのです。

4000万部以上発刊された『7つの習慣』のコヴィー博士や、SL(状況対応型リーダーシップ)理論のブランチャードが最大級のリスペクトをグリーンリーフに寄せています。
この両大家をはじめ、リーダーシップに関する世界の研究者や実践家が、サーバントリーダーシップこそが、今日求められているリーダーシップ像であること熱く語ります。

今回もこれまでのコラムに引き続き、定年再雇用のSさんと心理学を学びコーチングの資格を持つ若手A課長に、1on1を展開してもらうことにしましょう。

Sさんは「哲学とは何ぞや?」について、自己流の定義を語ります!

<Sさん>
前回の1on1で、サーバントという英語の語感に対して日本人の私がどう捉えているかを、Aさんにお話ししました。グリーンリーフの『サーバントリーダーシップ』は、そんな単純な内容ではないことを、Aさんの言葉から匂ってきます。ただその内容はまだ開示されていないので…(笑)
昭和の価値観に染まっている私も腑に落ちるよう、是非ともお願いします。

<A課長>
いきなり難易度の高い提案で、ちょっと緊張しますが、チャレンジしてみます!
グリーンリーフが最初にサーバントリーダーという言葉を世に問うたのは、1970年(66歳)だと言われています。2008年に発刊された翻訳の『サーバントリーダーシップ25周年記念版』の「前書きに代えて」の中でコヴィー博士が… 「…長年にわたって多くの<組織>と仕事する中で、私はこの本が与える衝撃を目の当たりにしてきた。そして、最も大きな成果はこれから現れるだろうと確信している…」と、書いています。

時代状況によって、注目されるリーダーシップ理論は変遷していくのですが、それらとは一線を画したところに屹立していたのが、サーバントリーダーシップということになります。

<Sさん>
何だか哲学のようですね。

<A課長>
確かに…理論というより、哲学と捉えた方がしっくりくるかもしれません。

<Sさん>
哲学と理論の違いは何ぞや? と突っ込みを入れたくなりますが、私は哲学を「過酷な日々と多幸感が織り交ざる人生を通じて、その人の内部に根付き確立していく信念」と解釈しています。

<A課長>
それってSさんのオリジナルの定義ですか?

<Sさん>
最初の頃の1on1で「哲学談義をしましょう」とお互いに盛り上がって以降、保留になっていましたが… 実は考え続けていました。還暦を超えて、哲学とは言わないまでも、自分なりの“よりどころ”を見出しておかないと…という思いもありますので、一応定義づけてみました。

<A課長>
なるほど…

<Sさん>
ただ、その“よりどころ”の形成はまだ途上です。 自己定義の最後の表現は「確立していく…」と現在進行形にしています。カントは死ぬ間際に「もうこれでよい」と言ったそうですが、人生100年時代の今日、還暦を過ぎたあたりで悟りを開くのも傲慢なような気もしますし…(笑)

コーチングのオンゴーイングによる“気づき”に終わりはない!

<A課長>
相変わらずのSさん語録ですね(笑)
コーチングの3原則の一つにオンゴーイングがあります。Sさんの“現在進行形”の意味とは少し異なりますが、コーチングを通じての気づきは、おそらくとどまることはないと思います。現にSさんとの1on1では毎回のように触発されています。生きる、ということは新たな刺激を受け続けることなので、感受性が枯渇しない限り成長は可能だと思います。

<Sさん>
ありがたいフィードバックです。還暦を過ぎた私も勇気づけられました。

<A課長>
えっ? 別にSさんへのフィードバックではないのですが…

<Sさん>
わかっていますよ(笑)

<A課長>
(苦笑)…またSさんにいじられてしまいました。
アイスブレイクが長くなってしまいましたが、本題に入りましょう。コーチングを学び続ける者として、グリーンリーフの言葉はとても響きます。

<Sさん>
その“響き”を私も共有させてください。よろしくお願いします。

<A課長>
サーバントリーダーシップは、グリーンリーフがヘルマン・ヘッセの『東方巡礼』の要の人物であるレーオから着想を得ています。レーオはサーバント…Sさんがこの言葉からまずイメージした召使ですが、この旅団に同行し、雑用をしています。持ち前の快活な性格や、歌を歌ったりすることによって、一行の支えとなっていたのです。ところがそのレーオが突然姿を消します。

ヘルマン・ヘッセの『東方巡礼』はサスペンス?

<Sさん>
サスペンスですね。どうなりました…?

<A課長>
いえ、推理小説ではないので… これまでうまくいっていた一行は混乱状態になり、旅は続行不能になります。

<Sさん>
なるほど… レーオはサーバントではあったが、実質リーダーの役割を担っていた、ということですね。

<A課長>
そういうことになります。そして旅の語り手は、何年かの放浪を経てレーオに出会います。そしてレーオに連れられて、あの旅を主催した教団へ行くことになるのですが… 語り手の彼はそこで、レーオとは何者だったのかを知るのですね。

<Sさん>
ということは…レーオはサーバントではなかった、ということですか?

<A課長>
そうなんです。レーオの真実の姿は、その教団のトップの肩書を持つ人物だったのです。

<Sさん>
これは小説ですよね?

<A課長>
ヘルマン・ヘッセが書いた小説です。

Sさんは『東方巡礼』のレーオを水戸黄門とダブらせてしまいます…

<Sさん>
まさに小説仕立てなので溜飲が下がりますが、これをそのまま現実に当てはめるのは… そうですね…水戸黄門を連想します。
私が小学生か中学生の頃TVドラマがスタートしています。初代の東野英治郎から最期は武田鉄矢だったかな? 最近まで続いていたので、超ロングセラー番組です。

身分を隠して全国を旅するご老公は、庶民からときにおじいちゃん扱いをされるのですが、最後に格さんが印籠を差し出すと、悪人どもがひれ伏し一件落着!です。

<A課長>
私は見ていないので、その世界観は今一つビンと来ないのですが、スーパーマンとかスパイダーマンには共感しています。

<Sさん>
私の娘たちは、セーラームーンですね。ただ男であるタキシード仮面はあまり活躍しません。時代の流れでしょうか、ジェンダー的配慮が感じられます(笑)

<A課長>
グリーンリーフも、あくまでも“着想”です。ここからグリーンリーフの思索の旅がはじまります。『サーバントリーダーシップ』は、大きく3部構成になっていて、最初の章は1969年のものです。続いて2章と3章が書かれ、その後の章はグリーンリーフが20年にわたって、論文や講演のために書いてきた内容です。ですから、グリーンリーフの大河小説ならぬ大河論文となります。

<Sさん>
ということは、グリーンリーフの考えが重層化していく、そのプロセスがたどれるわけだ。

<A課長>
サーバントとリーダーは別の役割だ、と受けとめてしまいますが、それをグリーンリーフは一人の人物が併せ持つことは可能であり、さらにこれこそが誰もが認めることのできる「真のリーダーシップ」である、という哲学を確立したのです。
こうしてサーバントリーダーシップは、印籠という権威の力を前提としたリーダーシップではない、誰もが納得し自然に受容することができる万人のためのリーダーシップであることが認識されます。

<Sさん>
なるほど…

1on1のテーマは“矛盾”に…

<A課長>
読み始めてしばらくすると、グリーンリーフが次のように問題をフォーカスする箇所が出てきます。

…リーダーとしてのサーバントに真の矛盾があるのと同様に、私が知覚している世界も矛盾に満ちていることである。例を挙げよう。私は秩序を重んじているが、混沌からの創造物を求めている。私の考える良い社会とは、コミュニティの中にあっても、個人の自立を重んじるものだ。エリート主義と人民主義が共存している。老人の話と若者の話に耳を傾け、どちらの話にも当惑し、励まされもする。理論と直感のどちらも、それぞれ心地よさを感じさせられる半面、不安にさせられる。矛盾はまだまだある…

<Sさん>
まったくその通りですね。矛盾は実にやっかいというか、何とかならないものか…と考えてしまいます。
ただ私は…「矛盾とされている捉え方は凝り固まった価値観のなせるところであり、外の世界に目を向け、真理の探究を通じてその矛盾を溶かすことは可能だ!」との信念を抱き、獅子奮迅の活躍によって、そのことを証明した人物を最近知りました。

<A課長>
それは誰ですか?

<Sさん>
渋沢栄一です。

<A課長>
『青天を衝け!』ですね。

<Sさん>
久しぶりにTVドラマにのめり込みました。
渋沢栄一は、大蔵省で伊藤博文とそれほど変わらない官位であった時点で民に下っています。当時の価値観は、まさに「下る」でした。もっとも現在でも、そのような印象を持つ人はいるようですが…

栄一は同僚の玉乃世履から、「賤しむべき金銭に目がくらんで、官職を去って商人になるとは実に呆れる。今まで君をそういう人間だとは思わなかった」と、罵倒ともいえる言葉を浴びせられます。

玉乃は後に現在の最高裁判所長官である大審院長となる人物です。栄一は「エリート層のこの価値観を払しょくしなければ日本の発展はない!」と、心に刻み込んだのですね。農民出身の栄一ですが、その時点では誰もが認めるエリートであったにもかかわらず… です。栄一は「矛盾をどのように溶かしていくか…」について、その“よりどころ”を論語に求めました。

論語を中国は当然のこと、世界中の識者が読み解いていますが、私は渋沢栄一こそが最も健全に、かつ現実的視点で論語を相対化させた世界一の論語研究者であると感じています。そして「道徳経済合一説」という渋沢哲学を確立します。

絶対的矛盾も包摂する日本の哲学とは…

<A課長>
Sさんの熱弁に触れて私も、「資本主義は最も禁欲的であった米国のプロテスタントが担ったことで大きく発展した」という一見矛盾した捉え方に対して、それをひも解いたというか、解明したマックス・ウエーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』を思い出しました。

<Sさん>
倒錯ですね。

<A課長>
グッドな表現です(笑)
実は『サーバントリーダーシップ』も、その視点が随所に出てきます。著作の最初に監訳者の金井さんが「撞着語法」と少し難しい言葉を使って、リーダーとフォロワーの関係をつぎのように説明しています。

両者は、相容れないどころか対極のようにも思える。しかし、実際には、フォロワーは、自分に尽くしてくれる人についていくものなのだ。その結果、気がつくと奉仕をしているタイプの人が、リーダーになっていることは多いし、奉仕者として素養のある人がリーダーになるほうが、かえって望ましい。

「撞着語法」は「矛盾語法」とも呼ばれるようなので、ピッタリですね。

<Sさん>
1on1のテーマをリーダーシップに定めて、Aさんのおかげでこうしてリスキリングができています。その最初を、私が唯一しっかり勉強した三隅二不二の「PM理論」から始めました。そのときAさんが、西田幾多郎でしたか…思い出せないのですが…

<A課長>
ああ… 「絶対矛盾的自己同一」ですか…?

<Sさん>
それです! それも“矛盾”ですね~

<A課長>
なるほど… 西田哲学はまさに日本発の哲学です。私はそのキーワードを「包摂」と捉えています。絶対的矛盾… それを包摂していくのですね。

<Sさん>
すばらしい! 今回の1on1の締めの言葉だと受けとめました。次回も引き続き『サーバントリーダーシップ』の解説をお願いします。いやいや「学びこそ悦びだ!」…私の金言です(笑)

<A課長>
私も何か金言を作らなければ…(笑)
こちらこそよろしくお願いします!

坂本 樹志 (日向 薫)

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