コーチングはさまざまな理論、特に心理学をベースに発展してきました。心理学はとても幅広い学問です。学習心理学、知覚心理学、認知心理学、発達心理学、社会心理学、臨床心理学…。カテゴリーについては、いくつかの分類法が存在し、この6つについても一つのアプローチといえます。そこで、今回からコーチングを理解するうえで役立つと思われる理論をいくつか紹介していくことにします。
まずは、「対人認知」をとりあげます。
対人認知とは、他者を把握する際にさまざまな情報に基づいて、その人がどのような性格であるのか、どのような気持ちでいるのかなど、人の心理状態、内面特性を推定する行為のことで、理論化されています。
私たちは日々たくさんの人と接し、またマスコミなどを通じて直接会っていない人たちの情報を得ると、案外早いタイミングで、「○○さんって、■▲という人だよね」、と理解した気持ちになりがちです。
もちろんその中には、豊富な人生経験を通じて洞察力が磨かれ、相手の言動だけでなく挙措動作も含めた情報を短い時間で総合化し、それほど外れていない人物像を特定させることのできる人はいるでしょう。ただ多くの人が、その総合化に至らず、思い込んだ人物像を形成させ、とりあえず“安心する”というパターンが見受けられます。
「対人認知」は相手の全体像を把握する上で有効な理論です。
この「対人認知」は、私たちはどのように相手を認識しているのか、その枠組みを与えてくれます。認知対象がモノの場合、それはスペックで表されますので、万人が同一な内容を把握することが可能です。他方、対人認知は一筋縄ではいきません。そこには次のような特徴が見出せます。
- 対象の外面的特徴だけでなく、内面的な性格や態度、能力の把握が必要となり、情報処理において推論が多くのウエイトを占める。
- 対象は人であり、対象者も認知しようとする相手に働きかけを行う(場合も多い)。つまり相互作用により認知内容も変化していく。
- 手がかりとなる情報は、直接的に与えられる情報だけでなく、第三者から、そして本人自身の過去の経験も含めた情報が混在する。
- 3とも関連するが、認知者の個人的要因に規定されることが多い。形成されたパーソナリティ、態度、その時の感情が認知に当たって大きく影響する。
いかがでしょうか?
実際のコーチングでは、この特徴をしっかり理解しておくことが大切です。
コーチングのプロでも、「思い込み」の隘路に陥ってしまうことがあります。
ジョハリの窓
最後に、人は自分のことを“実は知っているようで知っていない”ことを示唆してくれる「ジョハリの窓」を紹介しましょう。
これは「人には4つの窓があり、それぞれ以下の図で説明できる」というものです。
この図を理解することで、対人認知における齟齬を防ぐ一助になります。
坂本 樹志 (日向 薫)
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